日本のイノシシ分布

日本のイノシシ分布完全ガイド──全国78万頭の生息域・北上拡大・地域別狩猟事情を解説
狩猟 × 分布ガイド

日本のイノシシ分布 完全ガイド
全国78万頭の生息域・北上拡大・
地域別狩猟事情

九州・四国から東北へ──急速に生息域を広げるイノシシの実態と、各地域の出没傾向・狩猟難易度を現役ハンターが解説する。

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イノシシの全国的な概況

ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)は本州・四国・九州・対馬・五島列島・南西諸島(奄美群島以南)に分布する。環境省の令和4年度末時点の推定によれば、全国のイノシシ個体数は中央値で約78万頭だ。ピーク時(平成26年度:約88万頭)から減少傾向にあり、ニホンジカと異なり半減目標に向けて一定の成果が出ている。

ただし「減少傾向」は全国平均の話であり、地域によって状況はまったく異なる。近畿・中国・九州では捕獲強化で個体数が抑制されている一方、東北や北陸では新たに生息が確認されるエリアが増え、分布域の拡大は続いている。昭和53年度から平成30年度の40年間で分布域は約1.9倍に拡大した。

イノシシは雑食性が高く、繁殖力も旺盛だ。1頭のメスが年に1度、平均4〜5頭の子を産む。捕獲圧が下がるとあっという間に頭数が戻ってしまうのが、イノシシ管理の難しさだ。

イノシシの基礎データ:
全国推定個体数:約78万頭(令和4年度末・中央値)。分布:本州・四国・九州および一部の島嶼。北海道:自然状態での生息は未確認。分布域は昭和53年から平成30年の40年間で約1.9倍に拡大。

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分布の現状と「北上」──東北で何が起きているか

イノシシはもともと南方系の動物で、積雪が多い地域には生息できないとされてきた。足が短いため深雪では身動きが取れず、雪に覆われた地面ではミミズや球根などの餌も取れないからだ。しかし近年、この「常識」が覆りつつある。地球温暖化による積雪量の減少と、各地での過疎化・耕作放棄地の増加が、イノシシの北上を後押ししているのだ。

📰 東北でのイノシシ急増

東北地方でのイノシシ捕獲数は2014年度の約15,500頭から2019年度には約43,900頭と、5年間で約2.8倍に増加した(日本経済新聞、2021年)。特に東京電力福島第1原発事故で住民が避難した福島県では、避難指示区域内での目撃が集中し、捕獲数は同期間に13.2倍に激増した。隣の山形県では「県内では100年前に絶滅したとされていたイノシシが一気に攻め込まれた」と県担当者が語っており(同紙)、東北での急増は従来の分布の常識を塗り替えるほどだった。

令和2年度(2020年度)の環境省調査では、イノシシの分布メッシュ数が全国の総メッシュ数の約6割に達した。特に東北地方・北陸地方・関東地方において分布域の拡大が著しく、2014年度以降に新たに生息が確認されたエリアが多い。現在では青森県でもイノシシが捕獲されるようになっており、かつては「東北北部にイノシシはいない」という前提自体が過去のものになりつつある。

100年前に東北から消えたイノシシが戻ってきた。これは自然の回復ではなく、温暖化と人間活動の変化がもたらした生態系の再編だ。

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密度の高い地域──伝統的な分布域と現在

イノシシの密度が特に高い地域は、古くからの分布の中心地である西日本の山間部だ。兵庫県・岡山県・広島県・山口県といった中国地方の山間部では、農村の高齢化と耕作放棄地の増加を背景に個体数が増加しており、水稲・野菜・果樹への食害が深刻な問題になっている。

九州では熊本・宮崎・鹿児島・長崎(対馬を含む)で密度が高い。対馬は特異な例で、島内にシカとイノシシの両方が高密度で生息しており、ジビエ資源としての活用も進んでいる。また近畿では和歌山・奈良・三重の紀伊半島が高密度地帯として知られ、農業被害が特に大きい。

近年注目されているのが関東北部の拡大だ。埼玉・群馬・栃木・茨城の山間部でイノシシの目撃・被害が増加している。関東平野に接した低山帯にまで生息域が広がっており、都市近郊での遭遇事案も無視できなくなってきた。

初めてイノシシ猟に同行したとき、「どれほど素早いか」に驚かされた。時速約45kmとも言われる突進力は、シカとも熊とも異なる種類の危険さがある。特に傷を負ったイノシシや子を連れた母イノシシは、正面から突進してくることがある。くくり罠で生け捕りにした後の止め刺しは、経験者でも緊張する瞬間だ。

西日本の先輩ハンターに「イノシシは山のどこにでもいるが、好む場所がある」と教えられた。ドングリが豊富な落葉広葉樹林の縁、谷沿いの湿った場所、農地に隣接した藪。この3つを外さなければ、必ず痕跡が見つかると言っていた。実際、その通りだと経験から感じている。


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地域別の生息状況と特性一覧

地域・ブロック密度レベル主な特記事項狩猟難易度目安
近畿(兵庫・和歌山・奈良等)非常に高い西日本最高水準の一つ。農林業被害が全国でも多い低(数は多い)
中国地方(岡山・広島・山口等)非常に高い中国山地全域で高密度。農村過疎化で捕獲圧が低下傾向低(数は多い)
九州北部・西部非常に高い熊本・長崎・佐賀・福岡で高密度。農業被害甚大低(数は多い)
対馬(長崎県)極めて高い島内に他の天敵なし。ジビエ活用が進む。特異な生態系低(非常に多い)
紀伊半島(三重・和歌山・奈良)非常に高いシカとの複合被害あり。山地と農地が接する境界で多発低〜中
四国(高知・愛媛等)高い山地から農地への侵入が多い。狩猟者不足が課題中程度
関東北部(群馬・栃木・埼玉)中〜高い拡大傾向。山間部から農地への出没増加中中程度
福島県(東北南部)高い避難区域での急増。現在も高密度。有害駆除需要が高い中程度
山形・宮城・岩手(東北中部)中程度急速に拡大中。農業被害が年々増加。初確認から間もない高(まだ数が少ない)
青森県(東北北部)低い捕獲例が出始めている。生息確立はまだ不安定非常に高(稀少)
北海道0(未確認)自然状態での生息は未確認。イノブタの捕獲例はあり

※密度・難易度はあくまで目安。同一地域内でも場所・年度・豚熱(CSF)感染状況によって大きく異なる。

豚熱(CSF:古称・豚コレラ)の感染が確認された地域では、捕獲後の取り扱いに特別な防疫措置が必要だ(解体用具の消毒、靴底の洗浄・消毒、内臓の適切な廃棄等)。2018年に岐阜県で始まった豚熱の野生イノシシへの感染は2024年現在も終息しておらず、感染確認区域は毎年拡大している。猟場が感染確認区域に含まれるかどうかを農林水産省のウェブサイトで必ず事前確認すること。

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出没の季節性と行動特性──押さえるべきパターン

イノシシの出没には明確な季節パターンがある。農作物被害のピークは夏(水田のイネ)と秋(サツマイモ・ドングリ期)だ。夏は水田に侵入して稲を食い荒らし、秋はドングリを求めて行動範囲を広げる。山に木の実が多い年は人里への出没が減り、凶作年には農地への侵入が増えるパターンはシカと共通している。

イノシシは基本的に夜行性で、日没から夜明けにかけて最も活動する。ただし秋冬の猟期には昼間でも目撃されることがあり、特に曇天・雨天時や人気の少ない山間部では昼間の行動も多い。嗅覚は極めて鋭く、風向きを考慮した接近が必須だ。また体にこびりついた泥を落とすために木にこすりつける習性(ヌタバ:泥浴び場)が痕跡として残りやすく、痕跡からイノシシの行動ルートを読む上で重要な手がかりになる。

繁殖期は11月〜1月。この時期にオスが広く動き回るため、遭遇機会が増えるが、攻撃性も高まる。また発情期には牙をもったオスが無防備な行動を取ることもあり、罠にかかった後の対応でも注意が必要だ。

イノシシ猟の成果を上げる痕跡の読み方:
①ヌタバ(泥浴び場):水源近くの泥場に体を転がした跡。ここを通る行動ルートを把握する。②掘り返し:土をえぐった跡。ミミズ・球根を探した証拠。新鮮なほど直近に来た証拠。③足跡:蹄の形が特徴的。大小で雌雄の目安になる。④こすり跡(木の樹皮):一定の高さまでの泥汚れと毛。通行ルート確認に使える。

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狩猟の現場から──イノシシ猟の地域特性と難しさ

イノシシ猟は日本の狩猟において最も個体数が多く、かつ最も危険度が高い部類の一つだ。捕獲方法は主に銃猟(単独・巻き狩り)とくくり罠の2系統だが、止め刺しの難しさにおいてシカとは次元が異なる。

西日本の山間部では昔から「犬を使った巻き狩り」が伝統的なイノシシ猟の手法だ。猟犬(主にカイコウ・四国犬・紀州犬などの日本犬系)がイノシシを追い立て、タツマで待ち受けるハンターが仕留める。犬とのチームワークと、地形を読む力が鍵になる。一方で、全国的に猟犬を扱えるハンターが減少しており、こうした伝統的な巻き狩りの担い手不足が深刻な問題になっている。

くくり罠によるイノシシの捕獲は、シカと比べて止め刺しが格段に難しい。罠にかかったイノシシは非常に力が強く、激しく暴れる。また牙での反撃による死亡・重傷事故も毎年発生している。止め刺しには電気止め刺し器の利用が広まっているが、いずれにせよ経験者に直接習うことが絶対に必要だ。

イノシシの止め刺しで一番重要なのは「距離の管理」だと思っている。くくり罠で固定されていても、ある程度の行動範囲がある。その範囲に踏み込んだ瞬間が最も危ない。仲間から「罠のワイヤーを見て、最大どこまで届くかを頭に入れてから近づけ」と言われてから、無意識にそれが習慣になった。

東北のハンターからイノシシ猟の話を聞くと、「まだシカの方が多いからイノシシは新鮮に感じる」という声がある。10年前は「イノシシはいない」と言われた地域に今はいる。生態系が変わっていく速度を実感させられる話だ。

地域別のイノシシ猟スタイル:
◎ 西日本(近畿・中国・九州):猟犬を使った巻き狩りが伝統。担い手不足で移行期。くくり罠の比重が増加中。◎ 東日本(関東・東北):猟犬文化が薄く、最初からくくり罠や単独銃猟が中心。◎ 対馬・九州南部:個体密度が高く、一日の収穫が複数頭に及ぶこともある。ジビエとの連携が進む地域では処理施設への搬入ルートも確立されている。

出典・参考資料

  1. 環境省「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」(令和4年度末)2024年4月
    env.go.jp
  2. 環境省「全国のニホンジカ及びイノシシの生息分布調査について」(令和2年度)
    env.go.jp(PDF)
  3. 日本経済新聞「イノシシ捕獲5年で3倍弱 東北地方、生息域北に拡大」2021年1月
    nikkei.com
  4. 鳥獣被害対策ドットコム「北上するイノシシたち」2024年
    choujuhigai.com
  5. 鳥獣被害対策ドットコム「イノシシの生態・被害の現状・対策」
    choujuhigai.com
  6. 大日本猟友会「イノシシ・ニホンジカの分布状況」
    j-hunters.com
  7. 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況(令和4年度)」
    maff.go.jp

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Author: shintei