「知らなかった」では済まない―くくり罠猟の法規則
管理者より
わな猟を始めたばかりの頃、正直なところ規制の細かさに面食らった記憶がある。輪の直径がどうとか、締付け防止金具がどうとか、標識の文字の大きさまで決まっているとは思っていなかった。そして実際に、まわりのベテランハンターが「あれは違反だ」と言われるのを見て、初めて「これは本気で覚えないといけない」と感じた。法律を守ることは、自分を守ることでもある。最悪の場合、1年以下の懲役か100万円以下の罰金が待っている。そうなってから後悔しても遅い。この記事では、くくりわな猟に関わる主要な法規制を、現場の視点から丁寧に整理する。
初めに
くくりわなは手軽に始められるわな猟の代表格だが、その分「気づかないうちに違反している」リスクも高い猟法だ。輪の直径制限、締付け防止金具の装着義務、よりもどし・ワイヤー径の規定、同時設置数の上限、標識の表示義務──これらすべてが法律で定められており、一つでも満たしていなければ法令違反になりうる。しかも都道府県によって規制の内容が異なる部分もある。この記事では、鳥獣保護管理法に基づく全国共通ルールを軸に、現場で役立つ視点も交えながら完全整理する。
Pt1:そもそも何が違反になるのか──法律の大枠を5分で理解する
くくりわな猟を規制する根拠法は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(以下、鳥獣保護管理法)だ。この法律の施行規則第10条に、わな猟に関する具体的な禁止事項が列挙されている。ここが全ての出発点だ。
違反した場合の罰則は重い。環境省の公式ページによれば、鳥獣保護管理法に違反して野生鳥獣を捕獲した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる。また、標識を表示せずに猟具を使用した場合は、それだけで30万円以下の罰金の対象となる。「知らなかった」「うっかりだった」では通らない世界だということを、まず頭に入れておいてほしい。
⚠️ 違反の主な罰則(鳥獣保護管理法より)
禁止猟法の使用・許可条件違反・無登録での狩猟などは1年以下の懲役または100万円以下の罰金。標識を表示せずに猟具を使用した場合は30万円以下の罰金。いずれも「故意かどうか」に関係なく適用されうる。
では具体的に何が禁止されているのか。鳥獣保護管理法施行規則に基づき、くくりわなに関する主要なルールを整理すると以下のようになる。
| 規制項目 | 全国共通ルール(狩猟の場合) | 備考 |
|---|---|---|
| 輪の直径(イノシシ・シカ対象) | 12cm以下 (よりもどし・ワイヤー径4mm以上も必要) | 都道府県により緩和あり |
| 輪の直径(クマ・イノシシ・シカ以外の獣類対象) | 12cm以下 | 厳守 |
| 締付け防止金具 | 必ず装着すること | 全獣類で必須 |
| よりもどし(スイベル) | イノシシ・シカ捕獲時は必須 | 未装着は違反 |
| ワイヤーの直径 | イノシシ・シカ捕獲時は4mm以上 | 未満は違反 |
| 同時設置数 | 31以上は禁止(30基以下が上限) | 全猟具共通 |
| 標識の表示 | 猟具ごとに金属・プラスチック製標識を見やすい場所に | 未表示は罰金対象 |
Pt2:「輪の直径12cm」の本当の意味──計測方法を間違えると即違反

「輪の直径12cm以下」というルールは知っていても、その計測方法を正確に知っているハンターは意外と少ない。単純に「輪の大きさが12cm以内」と思っている人も多いが、正式な計測方法は少し特殊だ。
環境省の通知によると、「輪の直径12cmの計測は、内径の最大長の直線に直角に交わる内径を計測するもの」とされている。つまり、まず輪の中で最も長い内径を見つけ、そこに直角に交わる方向の内径を計測する、という手順だ。楕円形になりがちな実際のくくりわなでは、この計測方法を正しく理解していないと、見た目では「大丈夫そう」でも実測すると違反サイズになる可能性がある。
輪の直径については都道府県ごとの緩和措置も存在する。岡山県では15cm以下まで緩和されており、千葉県の一部地域でも同様の緩和が導入されている。神奈川県の特定区域ではイノシシ捕獲に限り12cmを超えるものも可とする期間を設けている。こうした地域差があるため、必ず出猟する都道府県のルールを事前に確認するのが鉄則だ。
私の経験
わな猟を始めて数年が経った頃、仲間から「その輪、ちょっと大きくないか?」と現場で指摘されたことがある。市販のくくりわなを買って「これなら大丈夫だろう」と思っていたが、実際に計測器を当ててみると微妙なラインだった。以来、新しいわなを購入したときは必ずノギス(精密計測器)で実測するようにしている。パッケージの表記サイズと実測値が微妙に違うことも、実はある。「市販品だから大丈夫」という思い込みは危ない。
PT3:締付け防止金具・よりもどし・ワイヤー径──3点セットで覚える
くくりわなに関する規制で、輪の直径と並んで重要なのがこの3つだ。特にイノシシとシカを対象とする場合、すべての条件を満たしていないと違反になる。それぞれの役割を理解すると、なぜ必要なのかが腑に落ちる。
締付け防止金具(全獣類に必要)
捕獲した個体がひたすら締め付けられないよう、輪が一定以上縮まらないようにする金具だ。これは錯誤捕獲(目的外の動物が捕まってしまうこと)が起きた際の損傷を軽減するためにある。特にクマ類の錯誤捕獲を想定した規制であり、これが装着されていないくくりわなは、捕獲対象の種類を問わず使用禁止となる。全獣類対象の規制の中でも、最も外れてはいけない条件がこれだ。
よりもどし(スイベル)──イノシシ・シカに必須
イノシシやシカのような大型獣が捕獲されると、激しく暴れてワイヤーに強い「より」(ねじれ)がかかる。よりもどしはワイヤー途中に取り付ける金属環で、このねじれを解消することでワイヤーの剛性低下と断線を防ぐ。よりもどしが装着されていないと、ワイヤーが過剰に縮み締付けを強化してしまうリスクもある。イノシシ・シカを対象にするなら必須装備だ。
ワイヤー径4mm以上──イノシシ・シカに必須
捕獲したイノシシやシカの力は想像以上に強く、細いワイヤーでは引きちぎられて逃げてしまうことがある。それだけでなく、断線したワイヤーが弾けて人を傷つける事故リスクもある。4mm未満のワイヤーはイノシシ・シカ対象の捕獲では法律上も禁止されているため、必ず確認してほしい。市販のくくりわな用ワイヤーには径が明記されているが、自作する際は特に注意が必要だ。
✅ イノシシ・シカ対象のくくりわな「4点チェック」
輪の直径が12cm以下(都道府県の緩和規定があれば確認)であること。締付け防止金具が装着されていること。よりもどし(スイベル)が装着されていること。ワイヤーの直径が4mm以上であること。この4点がすべて満たされていなければ、設置前に必ず修正する。
PT4:同時設置数は「30基まで」──上限を超えた瞬間に違反
わな猟免許を持っていれば何基でも仕掛けていいわけではない。鳥獣保護管理法施行規則では、同時に31以上のわなを使用することが禁止されている。つまり、狩猟登録者1人が同時に使用できるわなは最大30基(30個)までだ。これはくくりわなだけでなく、箱わなを含むすべてのわなを合算した数であることも重要だ。
「同時に」という点がポイントで、使用中のわなの総数が30を超えた時点で違反となる。たとえば箱わなを5基・くくりわなを26基使用しているなら合計31基となり、これだけで禁止猟法を使用したことになる。設置の段階ではなく、「稼働させている状態」が基準となるため、仕掛けっぱなしの古いわなも数にカウントされる点に注意が必要だ。
私の経験
仲間のハンターが、シーズン途中に箱わなをもらって急遽増設した結果、合計数が上限をオーバーしていたことに後から気づいたことがあった。「気づいたらオーバーしていた」では済まないので、シーズン初めに自分が何基仕掛けているか一度棚卸しするのは本当に大事だと思う。わなにはそれぞれ標識もつける必要があるから、標識を数えれば使用基数もわかる。一石二鳥で管理するのが賢いやり方だ。
PT5:標識の表示義務──「つけ忘れ」は30万円以下の罰金
これが意外と見落とされがちなのだが、くくりわなを含む網・わな類には必ず標識を取り付けなければならない。何かが捕獲されたとき、または誰かが発見したときに、設置者を特定できるようにするためだ。
標識に求められる仕様は細かく法定されている。材質は金属製またはプラスチック製のものに限り、紙や布は不可だ。記載文字は1字あたり縦1.0cm×横1.0cm以上のサイズで書かなければならない。鹿児島県の行政文書によると、市販の屋外用ラベル用紙(耐光性・耐水性のポリエステルフィルム)に印刷してプラスチック板に貼り付ける方法でも対応できる。
記載すべき内容は、狩猟の場合は「住所・氏名・都道府県知事名・登録年度・登録番号」の5点だ。有害鳥獣捕獲の許可を受けて行う場合は、これに加えて許可の有効期間・許可証番号・捕獲対象鳥獣の種類も必要になる。
| 区分 | 記載必須事項 | 材質・文字サイズ |
|---|---|---|
| 狩猟 | 住所/氏名/都道府県知事名/登録年度/登録番号 | 金属またはプラスチック製 文字:縦横各1.0cm以上 |
| 有害鳥獣捕獲 | 住所/氏名/知事名または市町村長名/許可有効期間/許可証番号/対象鳥獣の種類 | 同上 |
📰 実際の注意喚起(鹿児島県・岩手県・大阪府など複数自治体)
全国複数の都道府県が「最近、法律で定められた標識表示がされていないわなが散見される」として注意喚起を行っている。標識のないわなは鳥獣保護管理法違反となるため、必ず表示するよう各県が周知徹底を求めている。発見された場合は警察や行政から調査対象となることもある。
私の経験
標識について一度ヒヤリとした経験がある。山菜採りの人がわなを見つけて、地元の役場に「不審なわなが山に仕掛けられている」と通報したことがあった。標識をつけていたので、役場から自分に連絡が来て誤解はすぐ解けたが、標識がなければ不法投棄扱いになりかねなかった。標識はただのルールではなく、自分の身を守るものでもある。
PT6:「都道府県差」と「現場の落とし穴」
ここまで全国共通のルールを整理してきたが、実は都道府県ごとに大きな差がある部分がある。それが「輪の直径の緩和」だ。鳥獣保護管理法は全国基準として12cm以下を定めているが、特定鳥獣管理計画を策定している都道府県では、この規制を一部緩和または解除することができる。
岡山県や千葉県の一部地域、神奈川県の特定区域、和歌山県のクマ非生息地など、15cm以下まで緩和している地域は増えてきた。これは捕獲効率の向上を目的としたもので、より大きな輪で捕獲しやすくする試みだ。しかし当然ながら、緩和が適用されるのは「その地域の登録を受けたハンターが、その地域内で行う狩猟」に限られる。県をまたいで猟をするときは、その都度登録先の規制内容を確認しなければならない。
📌 都道府県確認の具体的な手順
出猟する都道府県の環境・自然保護担当窓口(もしくは各県猟友会)に「当年度のくくりわな輪径の規制状況」を確認する。特定鳥獣管理計画を策定している県では、計画の更新時期に規制内容が変わることもある。面倒でも、シーズン前の確認を習慣にするだけで「うっかり違反」はほぼ防げる。
もう一つ、現場で見落としやすい落とし穴がある。それは「クマが生息するエリアでのくくりわな」だ。ツキノワグマが恒常的に生息している地域では、クマの錯誤捕獲防止のためにくくりわなの使用自体を禁止したり、箱わなに脱出口を設けることを義務付けたりしている都道府県もある。自分の猟場にクマが出没した記録があるなら、その点の確認も怠れない。
まとめ:シーズン前に確認する習慣が、すべてを守る
くくりわな猟の法規制は、「知っているつもり」の人ほど危ない。輪の直径12cm以下という基本ルールだけ覚えていても、計測方法を間違えていれば意味がない。締付け防止金具・よりもどし・ワイヤー径はセットで揃える必要があり、標識の未表示だけで30万円以下の罰金になりうる。
そして都道府県によって規制内容が異なる部分もある。「去年は大丈夫だった」は今年も大丈夫という保証にはならない。毎年のシーズン前に、今回整理した4つの確認項目──輪の直径・付属金具・同時設置数・標識──を自分のわなに当てはめて確認する。たったこれだけで、違反リスクは大幅に下がる。
規則に縛られるのは窮屈に感じるかもしれないが、こうした規制があるからこそ、錯誤捕獲のリスクが下がり、狩猟という行為への社会的な信頼が保たれている。ルールを守ることは、狩猟の未来を守ることでもある。
⚖️ シーズン前に必ず「4点確認」──輪の直径・付属金具・設置数・標識。これだけでいい。
参考・出典
- 環境省「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則」(第10条・禁止猟法)https://laws.e-gov.go.jp/law/414M60001000028/
- 環境省「くくりわなに関する捕獲規制(参考資料)」https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort6/effort6-R03/ref04.pdf
- 環境省「野生動物の違法捕獲の防止」(罰則規定:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)https://www.env.go.jp/nature/choju/capture/capture2.html
- 東京都環境局「捕獲を禁止する猟法」(施行規則第10条各号の詳細)https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/birds/prohibition_hunting
- 大阪府「鳥獣捕獲許可証の携帯及び猟具の標識の設置」(標識未表示→30万円以下の罰金)https://www.pref.osaka.lg.jp/o120140/doubutu/yaseidoubutu/hyoshiki.html
- 香川県「狩猟用・有害鳥獣捕獲用の標識の例」(標識記載事項・文字サイズの詳細)https://www.pref.kagawa.lg.jp/midorihozen/shuryo/hyoshiki.html
- 岡山県「狩猟の適正化について」(輪径15cm以下への緩和措置) https://www.pref.okayama.jp/page/584993.html
- 神奈川県「ニホンジカ及びイノシシの狩猟期間の延長及びイノシシに係るくくりわなの径の規制解除について」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t4i/cnt/f986/documents/tokurei.html
- 鳥獣被害対策ドットコム「罠で捕獲をお考えの方へ」(同時31基以上禁止等の整理)https://www.choujuhigai.com/c/reed

