「義務じゃないから着なくていい」は大間違い──オレンジベスト未着用が招く保険金減額の現実
管理者より
「オレンジベストって、法律で決まってるの?」と狩猟仲間に聞いてみると、意外と答えられない人が多い。「義務だと思ってた」という人もいれば、「义务じゃないなら着なくていいよね」と言う人もいる。しかしどちらも、その先にある保険の話を知らないことが多い。実は、着用しなかった場合に狩猟事故共済保険の保険金が減額されることが、約款に明記されている。「法律じゃないから大丈夫」という安易な発想がいかに危ういか、この記事でしっかり伝えたい。
初めに
オレンジベストと帽子の着用は、鳥獣保護管理法上の義務ではない。これは事実だ。しかし猟友会に加入している銃猟ハンターは、大日本猟友会の「狩猟事故共済保険」に自動加入しており、その約款には着用しなかった場合の保険金減額規定が存在する。さらに言えば、オレンジベストは保険の問題だけでなく、命そのものを守る道具でもある。2018年に北海道恵庭市で起きた誤射死亡事故では、被害者はオレンジのヘルメットと赤いジャンパーを着用していたにもかかわらず命を落とした。視認性の衣類を着ていても事故は起きる。ならばなぜ着るのか──そこまで含めて、正直に掘り下げる。
Pt1:法律は義務としていない──では「なぜ着るのか」を整理する
まず事実関係をはっきりさせておく。現行の鳥獣保護管理法および同法施行規則には、狩猟時にオレンジベストや帽子を着用することを義務づける条項は存在しない。色の指定も、サイズの規定も、法的な強制力もない。その点では「義務ではない」という理解は正しい。
では、なぜ全国の猟友会がベストと帽子を配布し、着用を強く求めているのか。理由は明快だ。誤射事故を防ぐためだ。シカやイノシシは色盲であり、オレンジ色を灰色に近い色として認識する。つまりオレンジは獲物にとってカモフラージュに近い色でありながら、人間には非常に目立つ色だ。この特性を利用して、ハンター同士が互いを「人である」と視認できる確率を高めるための、合理的な慣行が着用推奨の背景にある。
ただし、これが「効果的かどうか」については正直に言う必要がある。オレンジを着ていても誤射は起きる。実際に起きている。視認性の衣類は「誤射をゼロにする」ものではなく「誤射のリスクを下げる」ための道具だ。それを理解したうえで、次の問いに移ろう。
📰 2018年11月 北海道恵庭市・誤射死亡事故(日本経済新聞・北海道庁資料より)
2018年11月20日、石狩管内恵庭市の国有林で、林野庁北海道森林管理局の職員(38歳)がエゾシカ猟をしていた40代のハンターに誤射され死亡した。被害者は赤色のジャンパーとオレンジ色のヘルメットという目立つ格好をしていたにもかかわらず、ハンターは「動物と間違えて撃った」と説明した。翌日、業務上過失致死の疑いでハンターは逮捕された。一審では禁固2年・執行猶予5年の有罪判決が言い渡された。この事故を受けて北海道内の国有林での銃猟が一時禁止となり、北海道猟友会会員5,300人以上が狩猟自粛を余儀なくされた。
この事件が示しているのは、「オレンジを着ていれば絶対に安全」ではないということだ。しかし着ていれば確率は下がる。そしてもう一つ重要な視点がある。猟友会に加入しているハンターには、着用しないことで保険に影響が出るという現実だ。
Pt2:約款に書いてある「減額規定」──その中身を正確に読む
大日本猟友会の「狩猟事故共済保険」の約款(別表5)には、「順守義務違反の内容」に対する保険金の減額規定が明記されている。これは猟友会員であれば自動加入している保険だ。その中身を正確に見てみよう。
| 着用状況 | 減額される金額 | 上限額 |
|---|---|---|
| ベスト・帽子の両方未着用 | 支払保険金額の10%相当額 | 自損事故:10万円 他損事故:200万円 |
| 帽子のみ着用・ベスト未着用 | 支払保険金額の10%の70%相当額 | 同上 |
| ベストのみ着用・帽子未着用 | 支払保険金額の10%の30%相当額 | 同上 |
| 両方着用 | 減額なし | — |
注意が必要なのは、「被害者側にも着用義務がある」という点だ。約款によれば、他損事故の被害者が猟友会の第1種または第2種銃猟構成員である場合、被害者自身が着用していなかった場合にも保険金が減額されることがあると定められている。つまり撃った側だけの問題ではない。自分が被害者になったとき、ベストと帽子を着ていなければ、受け取れる保険金が減るのだ。
⚠️ 重要:「同等の視認性のあるベスト」は現在はOKではない
以前は「猟友会ベストと同等の視認性があれば市販のオレンジベストでも減額されない」という解釈もあったが、現在の約款では「大日本猟友会の安全狩猟ベスト・帽子」が明記されており、市販品では条件を満たさない可能性がある。必ず最新の約款を確認し、猟友会から配布・または指定された製品を使用することが安全だ。
では共済保険の補償限度額4,000万円から10%が減額されると、実際にはどのくらいの影響があるのか。他損事故で満額に近い保険金が支払われるケースで考えると、200万円という上限減額は非常に大きい。死亡事故や重篤な後遺障害が発生した場合に示談や賠償が行われる際、この差は現実的に問題になりえる数字だ。
Pt3:カモ猟・鳥猟では「着ない方がいい」という現場の矛盾
ここで正直に言わなければならないことがある。実は、カモ猟や鳥猟においては、オレンジ色を着ない方が猟果が上がるという現場の現実がある。なぜか。鳥類はシカやイノシシと違い、色を識別できる視覚を持っている。人間と同様に赤やオレンジを認識できるため、目立つ色を着たハンターは警戒されやすい。このため、カモ猟や鳥猟では迷彩柄のアウターを着るハンターが多く、猟友会ベストを着用しない場面も珍しくないのが実態だ。
この矛盾にどう向き合うか。現場では「鳥猟ならベストを着ないのは仕方ない」という空気があるのは事実だ。しかし保険の観点では、着用しなければ約款上の義務違反に問われる可能性がある。猟友会ベストを背中側に着るなど工夫している人もいる。あくまでこれは個人の判断の領域になるが、「着ない理由」と「その結果どうなるか」を知ったうえで判断してほしい。
私の経験
正直なところ、自分も最初の猟期は「ベストを着るのが当然」としか思っていなかった。なぜそうなのかを考えたことすらなかった。あるとき先輩ハンターから「お前、約款ちゃんと読んだことあるか?」と言われて初めて開いてみると、着用しないと保険金が減額されると書いてある。衝撃だった。保険は「何かあったときに守ってくれるもの」というぼんやりした認識しかなかったが、着ているかどうかでその内容が変わるとは思っていなかった。それ以来、出猟前にベストと帽子の確認を習慣にしている。
Pt4:管理者Tの視点──「着る理由」を自分の言葉で持っているか
狩猟を続けてきて感じることがある。「ベストを着ている人」と「着ていない人」の間に、単なるルール遵守以上の差があるように思えることだ。着ている人は、なぜ着るのかを自分の言葉で説明できることが多い。着ていない人は、理由を聞くと「なんとなく」か「義務じゃないから」の二択になりがちだ。
「なぜ着るのか」を自分の言葉で持っているハンターは、山の中での行動にも理由がある。「なぜここで撃つのか」「なぜここで止まるのか」を言語化できる人だ。反対に、ルールの意味を考えたことがない人は、何かがずれているときにそれに気づかない。2018年の恵庭の事故でハンターは「動物と間違えた」と言ったが、オレンジのヘルメットを被った人間を見て動物と見誤るためには、確認のプロセスがどこかで崩れていたはずだ。
オレンジベストは事故をゼロにはできない。でも「なぜ着るのか」を理解しているハンターは、山での行動全体が変わる。そういうことだと思っている。
私の視点
まわりのハンター仲間を見ていると、ベテランほど「当然着る」という態度で、そこに迷いがない。新しく免許を取った人に話を聞いていると、「猟友会でもらったから一応着てる」という感覚の人が多い。「保険が減額される」ことも「鳥猟では視認される」ことも知らないまま着ている。知っているのと知らないのでは、山での一つひとつの判断が変わってくるはずだ。だから自分がこういう記事を書く意味があると思っている。
読者に特に伝えたいのは、「自分の加入している保険の約款を一度開いてみてほしい」ということだ。猟友会の共済保険に加入しているなら、着用義務と減額規定は必ず書いてある。それを自分で確認することで、ベストを着る理由が「なんとなく」から「知ったうえで着る」に変わる。その差は小さいようで、実はとても大きい。
✅ 出猟前に確認したい3点
大日本猟友会から配布された「安全狩猟ベスト」と「帽子」の両方を着用していること。市販のオレンジベストのみを代用している場合は約款を確認し、対象となる製品か確認すること。そして猟法によって着用の判断が変わる(鳥猟では迷彩を選ぶなど)場合でも、その際の保険への影響を理解したうえで判断すること。
まとめ──「義務か義務じゃないか」ではなく「知って着るか」だ
オレンジベストと帽子の着用は、法的義務ではない。しかし猟友会の共済保険の約款には、着用しなかった場合の保険金減額が明記されている。両方未着用なら他損事故で最大200万円の減額、片方だけでもその割合に応じた減額が発生する。これは「知らなかった」では通らない話だ。
さらに言えば、被害者側が着用していなかった場合にも減額対象になりうる。自分が撃つ側だけでなく、撃たれる側としても着ているかどうかが保険に影響する。
一方で、2018年の恵庭事故が示す通り、オレンジを着ていれば絶対安全というわけでもない。着ることは「リスクを下げる」ことであり、「確認義務を怠らないこと」と組み合わせて初めて意味をなす。ベストを着る理由を自分の言葉で語れるハンターになってほしい。今シーズンから、猟友会の約款を一度でいいから読んでみてほしい。そこには想像以上の情報が書いてある。
🧡 オレンジベストを「なんとなく着る」から「理解して着る」へ。それが安全なハンターの第一歩だ。
参考・出典
- 大日本猟友会「狩猟事故共済普通保険約款」(別表5 保険金から減額する又は請求できる本人負担金の金額)http://j-hunters.com/about/images/insurance/hoken.pdf
- 島根県猟友会「狩猟事故共済普通保険約款(認可後)」(減額規定の詳細)https://www.shimane-ryoyukai.jp/
- 大日本猟友会「猟友会に入ろう!」(共済保険の補償内容・限度額4,000万円)http://j-hunters.com/about/member.php
- AEGハンターズショップ「みんなどうして着るの? ハンティングベストの基本的なナゾ(1)」(約款の着用義務・市販品の可否)https://aeg-hunters.shop/blog/2022/07/15/huntingvest1/
- 日本経済新聞「誤射で森林管理局職員死亡 北海道、ハンター逮捕へ」(2018年11月20日)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38002080Q8A121C1CC1000/
- 北海道庁「北海道で狩猟をする皆さまへ」(2018年恵庭誤射事故を受けた措置)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/syuryo/syuryoutyuui.html
- ハンター日記「2018年北海道恵庭猟銃誤射事件 裁判とその後」(禁固2年執行猶予5年の判決内容)https://tiotrinitatis.com/hunter/accident-the-after_nov19
- AEGハンターズショップ「オレンジ色のベスト着用は狩猟時の法的義務ではない」(商品説明ページ)https://aeg-hunters.shop/?mode=cate&cbid=2413692&csid=1
- Yahoo!知恵袋「狩猟の際オレンジの帽子とベストは必ず着なければいけないか」(猟友会ルールと保険減額の関係)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11272642161
©本記事の保険情報は執筆時点の約款に基づきます。最新の約款は猟友会または大日本猟友会にご確認ください。

