忍び猟 vs 巻き狩り「どちらが自分に向いているか」を5つの基準で判断する
同じイノシシを追うのでも、猟法の選択で「成果」も「楽しさ」も大きく変わる。ハンター歴のある管理者Tが、現場目線で両者を比較・分析する。
管理者より
狩猟免許を取ってしばらく経った頃、私は巻き狩りグループに誘ってもらい、マチ(待ち子)として山の中に立ち続ける日々を過ごした。正直、最初は何が楽しいのかよくわからなかった。ひたすら寒い中で立っているだけ、みたいな。だがその後、単独で忍び猟をやり始めて気づいたことがある——どちらにも、それぞれに深い「面白さ」があり、どちらが「正解」なんてものは存在しない、ということだ。ただ、向き不向きは確実にある。そして、自分の向き不向きを早めに見極めることが、遠回りせずに成果を出すための近道だと思っている。この記事では、そのヒントを書いた。
初めに
イノシシ猟といえば、多くの人が「猟犬が吠えながらイノシシを追う」大迫力の映像を思い浮かべるかもしれない。確かにそれは巻き狩りの一場面だが、猟の世界はそれだけではない。一人で山に入り、息をひそめてイノシシに近づき、静寂の中で引き金を引く忍び猟も、れっきとした大物猟のスタイルだ。
どちらが優れているか、という問いは無意味だ。問うべきは「自分にはどちらが向いているか」である。地形・仲間の有無・体力・性格・猟場の状況——これらの要素によって、最適な選択は変わってくる。そしてその判断を誤ると、何年経っても獲物に恵まれないまま猟期が終わる、ということが起きる。そうならないための判断基準を、この記事でまとめた。
Pt1:そもそも、忍び猟と巻き狩りは何が違うのか
まずは前提として、二つの猟法の基本的な構造を整理しておく。知っている人も多いと思うが、ここを正確に押さえておかないと、後半の「どちらが自分に向いているか」という判断がぼやけてしまう。
忍び猟とは
忍び猟は、基本的に単独で山に入り、自分の目と耳だけで獲物を探しながら静かに近づき仕留める猟法だ。「獲物に気づかれないように歩く」というのが最大のポイントで、3歩歩いたら一度止まり、周囲の音を拾い、また歩く——という動作の繰り返しが基本になる。イノシシの場合は、草むらで休んでいる「寝屋(ねや)」を探して近づいたり、地面を掘り返している個体の警戒心が緩んだ瞬間を狙うといったアプローチもある。すべての判断が自分一人にかかっているため、スキルと経験の積み重ねが直接成果に反映される、ある意味で純粋な猟法だ。
巻き狩りとは
巻き狩りは複数のハンターがチームを組み、役割を分担して行うグループ猟だ。獲物を追い立てる「勢子(セコ)」、逃げ道で待ち構える「待ち子(マチ)」、全体を指揮する「隊長」の三役が基本構成になる。猟犬を使うグループも多く、猟犬の鳴き声と無線機のやり取りで獲物の動きを把握しながら連携する。うまくいけば一度の猟で複数頭を獲ることも可能で、仲間と獲物を等分する「マタギ勘定」の文化も残っている。
| 項目 | 忍び猟(単独) | 巻き狩り(グループ) |
|---|---|---|
| 人数 | 基本1人 | 最低4〜5人、多ければ10人超も |
| 猟犬 | 基本使わない(例外あり) | 使う場合が多い |
| 行動範囲 | 徒歩圏内に限られる | 山全体を囲む広域 |
| スコープ倍率の目安 | 3〜9倍・3〜12倍が主流 | 等倍〜4倍(近距離対応) |
| 捕獲効率 | 低め(経験値で上がる) | 高め(連携次第でさらに上がる) |
| 獲物の解体 | 一人でやる必要がある | 分担・共同で行える |
| 安全リスク | 遭難・ケガ時の対応が困難 | 誤射リスク・猟犬による咬傷 |
| 向いている地形 | 起伏が複雑な奥山・里山 | 出口が読める地形・稜線周辺 |
📰 神奈川・清川村で200kg超のイノシシを仕留めた事例
2019年11月、神奈川県清川村煤ケ谷で、巻き狩りのマチ(待ち子)を担当したハンターが体重200kgを超える巨大イノシシを仕留めた。複数のグループが連携する巻き狩り形式で、猟犬がイノシシを追い立て、待ち構えていたマチが仕留めるという形だった。仕留めたハンターは「巨大ゆえに動きが読みやすかった」とも語っており、大型個体ほど動きが遅く巻き狩り向きであることを示す事例として興味深い。一方で同じハンターは、千葉では少人数や単独でのイノシシ猟もこなしており、地域と状況に応じて猟法を使い分けていた。
Pt2:自分に向いているのはどちらか──5つの判断基準
ここが記事の核心だ。どちらの猟法が「自分に合っているか」を判断するための5つの基準を、できるだけ実践的な言葉で書いた。ぜひ、自分に当てはめながら読んでみてほしい。
基準 01
一緒に動ける仲間が
いるか、いないか
巻き狩りは最低でも4〜5人のチームが必要で、セコ・マチの役割を分担できる信頼関係がなければ成立しない。仲間がいない・猟友会に所属していないなら、忍び猟が現実的な選択肢になる。
仲間あり → 巻き狩りも選択肢
単独行動が多い → 忍び猟向き
基準 02
「待つ」のが得意か、
「動く」のが得意か
巻き狩りのマチは、何時間も同じ場所でじっと音を聞き続ける忍耐力が要る。逆に忍び猟は、山を能動的に歩き回るため体力と持続的な集中力が求められる。
じっとできる → 巻き狩りのマチ向き
動きたい → 忍び猟向き
基準 03
猟場の地形は
開けているか、複雑か
巻き狩りは「獲物の逃げ道が読める地形」が前提だ。出口が複数あり複雑な地形では、マチが配置しきれない。逆に忍び猟は地形の複雑さが有利に働くことも多い。
出口が読める地形 → 巻き狩り有利
複雑な地形 → 忍び猟が適合
基準 04
山の「読み方」を
どこまで身につけているか
忍び猟は、足跡・獣道・フン・掘り跡などの痕跡を読み、獲物がどこにいるかを自分で推定しなければならない。この「痕跡読み」なしで忍び猟に入ると、ただの山歩きになる。
痕跡が読める → 忍び猟で成果が出やすい
痕跡を読めない → まず巻き狩りで経験値を積む
基準 05
猟の「楽しみ方」が
どちらに近いか
巻き狩りの醍醐味は、仲間との連携と獲物を追う臨場感だ。忍び猟の醍醐味は、山との対話と、沈黙の中で積み上げる一発の充実感だ。どちらに惹かれるかが継続力に直結する。
チームプレーが好き → 巻き狩り
一人の完結感が好き → 忍び猟
補足
「どちらか」ではなく
「組み合わせる」という視点
実際には、多くの上級ハンターは両方こなせる。巻き狩りで地形と獣の動きを覚え、その知識を忍び猟に活かす、という流れが最も効率的な成長ルートとも言われる。
両方経験することが最善
Pt3:現場でわかった、教科書に載っていないこと
私が忍び猟にはまったのは、巻き狩りで「タツマ(待ち場)」に何時間も立ち続けながら、「自分で獲物を探したい」という感覚が積み上がっていったからだと思う。グループで獲れた喜びも確かにあるのだが、どうしても「自分が仕留めた」という感覚が希薄になる。その反動か、山に単独で入るようになってから、獣道の読み方や痕跡の見方が急速に身についた気がする。
ただし、正直に言うと忍び猟を始めた最初の猟期は惨憺たるものだった。下見をせずに入った山で、ひたすら歩き続けて何も見ずに帰る——という日が続いた。周囲のベテランから「まず巻き狩りで山の地形を頭に入れろ」と言われた意味が、後になってやっとわかった。巻き狩りで勢子をやった経験があれば、イノシシがどういう地形を好み、どういう逃げ方をするかが体でわかる。それが忍び猟の「付き場を読む力」の基礎になっている。
もうひとつ、これは仲間のベテランハンターから聞いた話だが、イノシシの忍び猟で最も重要なのは「匂い管理」だという。シカよりもイノシシの方が嗅覚が鋭い個体が多く、風下に回れているかどうかで遭遇率がまるで変わる。柔軟剤の匂いのする服で山に入ることを、ベテランたちはそれはもう嫌がる。巻き狩りでも同様で、隊長に「前日はシャンプーをするな」と言われているグループもある。こういうことが、マニュアルには書いてない。
イノシシ忍び猟で見落とされがちな「行動パターン」の話
イノシシは、シカと違って逃げたら一気に突っ走る習性がある。シカには「ラウンディング(大きな円を描きながら逃げて元の場所に戻る)」という習性があるが、イノシシにはそれがない。一度気づかれて走り始めたら、追っても無駄だと割り切った方がいい。つまり忍び猟でイノシシを狙う際は、「気づかれる前に確実に仕留められる状況を作る」ことがすべてだ。地面を掘っているイノシシは警戒心が緩んでいて近づきやすいという現場の知恵は、まさにそこを突いたものだ。
✅ イノシシ忍び猟で知っておきたい生態メモ
嗅覚が最重要の感覚器:イノシシは嗅覚が非常に発達している。風向きを読んで常に風上から近づくことが大前提。
夜行性傾向だが日中も動く:朝夕の薄暗い時間帯が活発。特に早朝・夕方前後の「マズメ」の時間帯が最も出現率が高い。
寝屋(ねや)の場所を見つけることが鍵:イノシシは日中、草むらや崖下のガレ場など見通しの悪い場所で休む。草の倒れ方、体毛の付着などが手がかりになる。
単独猟でイノシシはシカより「難しい」:遭遇率自体がシカより低い地域が多く、「シカを10頭獲るよりイノシシを1頭獲りたい」と語るハンターがいるほど。根気が必要だ。
巻き狩りで「マチ(待ち子)」をうまくやるための現場の話
巻き狩りに参加したばかりの頃、タツマで何時間も立ちながら「これはいつ来るんだろう」と正直焦ることがあった。そこで気づくのが、タツマの「場所選び」の重要性だ。獲物の逃走ルートを正確に読んで立つ場所を決めないと、いくら待っても獲物は来ない。勢子がどの方向から追い込むか、地形的にどこが「出口」になるかを頭に入れておく必要がある。これができているマチは、獲物が来たときも冷静で、タイミングを計れる。
それともうひとつ、マチが気をつけるべきことがある。匂いだ。タバコやコーヒーの匂いは獲物に気づかれる最大の原因のひとつだ。巻き狩りで猟犬に追われて逃げてきたイノシシでも、マチの匂いを感知した瞬間に方向転換することがある。体を動かせない分だけ匂い管理がより重要になるのが、マチという役割の難しさだ。
⚠️ 安全に関する注意事項——特に忍び猟の単独行動について
単独行動の最大リスクは「緊急時に助けを呼べないこと」だ。山中でケガをしたり、イノシシの反撃を受けたりした場合、一人では対処が極めて困難になる。位置情報共有ツールの活用と、信頼できる人への行動計画の共有は必須だ。
手負いのイノシシは非常に危険だ。急所を外した場合、怒り狂って突進してくる可能性がある。確実に仕留められない状況での発砲は控え、応援を呼ぶことを優先してほしい。
巻き狩りの誤射リスクも忘れずに。射線上に他の参加者がいないかを確認する習慣は徹底すること。猟犬が近くにいる場合も同様だ。
まとめ:「どちらか」ではなく「どの順番で」という問いに変えよう
この記事で伝えたかったことは、忍び猟と巻き狩りの優劣ではない。自分の状況・地形・性格・経験値に合った選択をすることが、成果への最短ルートだ、ということだ。
経験が浅いうちは、巻き狩りのグループに混ぜてもらうことを強くすすめる。勢子として山を走り回り、マチとして待ち続けることで、イノシシの動きと地形の関係が体に染み込んでいく。その蓄積があって初めて、忍び猟での「付き場読み」が機能し始める。反対に、下見もなしに単独で山に入ってもそれはただの散歩で終わることが多い——私の経験から言っても、これは間違いない。
一方で、ある程度経験を積んだなら、忍び猟への挑戦は間違いなく猟師としての「深さ」を広げる。仲間のスケジュールに左右されず、山の読みひとつで獲物に辿り着けたときの充実感は、グループ猟では得られないものがある。
最後に読者へ。今年の猟期に向けて、まだ猟法を迷っているなら、この5つの基準を自分に当てはめてみてほしい。そして一度、どちらの猟法も体験することを迷わず実行してほしい。頭で考えるよりも、山に入った方が早い。
この記事を読んで「やってみよう」と思ったなら、まず地元の猟友会に連絡してみてほしい。
巻き狩りの見学・参加から始めるのが、最も現実的な第一歩だ。
出典・参考情報
- マイナビ農業「狩猟の方法4種類を現役猟師が解説!場所や獲物に合った方法を選ぼう」2020年4月
- 新狩猟世界「野生動物に気付かれないように近づこう!プロ猟師が『忍び猟』の極意を教えます」chikatoshoukai.com
- BEST TiMES「巻き狩り、単独猟、忍び猟ってなに?」kk-bestsellers.com、2020年4月
- 山のクジラを獲りたくて「【初級編】単独忍び猟とはなにか?」yamanokujira.com、2022年7月
- イノホイ「200kg超えのイノシシを捕獲!巨大イノシシを仕留めたハンター・吉澤崇幸さんにインタビュー」2020年3月
- ジビエの教科書「猟師はどんな道具を使って狩猟するの?様々な捕獲方法を紹介します」gibieratoz.com
- note「私と狩猟③単独忍び猟」テシマモリアキオ、2021年12月
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