穴狩りは本当に復活したのか?春グマ猟の実態と現場のリアル
1990年に廃止された「穴狩り」が、被害急増を背景に静かに動き出している。賛否が渦巻くこの問題を、ハンター視点で深堀する。
管理者より
「穴狩り」という言葉を聞いて、どんなイメージを持つだろうか。眠るクマを無防備に仕留める――そう聞けば、動物愛護の観点から批判したくなる人の気持ちも、正直わかる。ところが現場では、話はそう単純ではない。狩猟免許を取得してから周囲のベテランハンターたちと山に入り続けてきた私は、この問題に一定の複雑な感情を抱きながら向き合い続けている。制度の話だけでなく、実際に山を歩くハンターとして「今、何が起きているのか」を、できるだけ正直に書いた。感情論に流れず、しかし現場感を失わずに、この問題を読み解いてほしい。
初めに
2025年は「熊」という文字が今年の漢字に選ばれた年だった。環境省の集計によれば、2025年4月から9月末の時点ですでに全国のクマによる死傷者数は108人を超え、死者7人という過去最多の水準で推移した。そんな状況の中、政府が2025年11月に打ち出した「クマ被害対策パッケージ」に、「春期のクマの捕獲の推進」という文言が盛り込まれた。
これを受けてメディアは「冬眠中のクマ捕獲、穴狩り復活か」と報じ、ネット上では「酷すぎる」「道義に反する」といった批判の声があがった。一方で、実際に被害を受けてきた農村地域の住民からは「もっと早くやってほしかった」という声も少なくない。いったいどちらが正しいのか。あるいは、どちらも正しいのか。そして、現場のハンターにとって穴狩りとはどういう狩猟なのか。この記事では、そこをできるだけ丁寧に解きほぐしたい。
Pt1:穴狩りとは何か――誰も教えてくれない本当のところ
穴狩りとは、冬眠中のクマをその巣穴ごと捕獲・射殺する猟法である。クマは土の中の空洞、木の根張り、樹洞(大木の内部の空洞)などを利用して冬眠するが、その巣穴を見つけ出し、中のクマを外に誘い出してか、あるいは直接射殺する。残雪期(主に2月〜3月)に行われてきたこの猟は、かつてマタギ文化の中に深く根ざしていた。
なぜ残雪期なのかというと、理由は明快だ。雪があれば足跡がくっきりと残るため、クマの動線が読める。植物の葉がまだ茂っていないため、遠距離からでもクマの姿を視認しやすい。そして何より、クマはまだ動きが鈍く、反応が遅い。一年で最もクマを「獲りやすい」のが、この時期である。
📋 クマの巣穴の種類(ハンターが知っておくべき基礎知識)
木の根張り穴:大木の根元が土をせり上げた空洞で、最も一般的な冬眠場所。外から見ただけでは穴だとわからないことも多い。
樹洞:枯れ木や大木の内部が空洞になったもの。縦型になっているため、木の中をのぞいて初めてクマと目が合うことも。
岩穴・土穴:崖崩れ跡の地形などを利用した穴。積雪地帯ではこの形が多い。
雪洞:深い積雪の斜面の中に自ら掘って入ることもある。特にヒグマで確認されている。
とはいえ、ここで注意が必要なのは、「穴を探せばそこにクマがいる」というほど単純ではないということだ。環境省でさえ「昔のように、クマの穴を知っている人は少なくなった」と認めている。実際、現代の若いハンターで穴の場所を知っている者はほとんどいない。昔はマタギが世代から世代へと穴の位置を口伝えしてきたが、その文化は途絶えつつある。穴狩りが「復活」するとしても、それをできる人間が非常に限られているというのが、現場の偽らざる実情だ。
Pt2:1990年の廃止から2023年の再導入まで――歴史の振り返り
穴狩りを含む「春グマ猟」が北海道で廃止されたのは1990年のことだ。その理由は、過剰な捕獲によってヒグマの生息数が急減したからである。1980年代後半、北海道各地でヒグマが激減し、地域的な絶滅さえ懸念されるほどになった。穴狩りは雌グマと子グマを一緒に捕獲できるほど捕獲率が高く、それが個体数の激減を招いたとされる。批判的な文脈では「絶滅政策」とすら呼ばれた所以だ。
その後、保護政策が功を奏した結果、推定生息数は1990年の約5,200頭から2020年には約1万1,700頭へと倍増した。分布域も拡大し、かつてはクマがいなかった地域にまでその範囲が広がった。ここに来て状況は大きく変わる。人身被害は増え続け、2021年度の北海道での死傷者は過去最多の14人に達した。農業被害も2018年度以降、毎年2億円を超える水準で推移している。こうした状況を受け、北海道は2023年、人の生活圏から3〜5キロ圏内を対象とした「春期管理捕獲」という名称で、穴狩りを含む春グマ猟を33年ぶりに再導入した。2024年には対象区域が最大10キロまで拡大された。
| 時期 | 動き | 背景・理由 |
|---|---|---|
| 〜1989年 | 春グマ猟(穴狩り含む)が実施 | 生活・農業被害対策として慣行化 |
| 1990年 | 北海道で春グマ猟を廃止 | 乱獲によるヒグマ激減・地域的絶滅の懸念 |
| 1990年代〜 | 保護政策を強化 | 生息数が回復・分布域が拡大 |
| 2021年 | 北海道のヒグマ死傷者が過去最多(14人) | 個体数増加と分布拡大が複合 |
| 2023年 | 北海道が「春期管理捕獲」を再導入 | 人里周辺3〜5km圏内での穴狩りが可能に |
| 2024年 | 対象区域を最大10kmに拡大 | 被害継続・管理強化の方針 |
| 2025年11月 | 国が「クマ被害対策パッケージ」発表 | 全国的な春期捕獲の推進・秋田など各県が追随 |
【実例】北海道・福島町:4年間潜み続けた「同一個体」による連続被害
2025年7月、北海道福島町で52歳の新聞配達員がヒグマに襲われ死亡した。その後のDNA鑑定で、このクマは2021年に同じ町内で77歳の女性を襲い死亡させた個体と同一であることが判明した。4年間にわたって人里に潜み続け、複数の被害を出したのち駆除されるまで特定されなかったという事実は、多くの人に衝撃を与えた。この事例は、問題個体を早期に管理することの重要性を、痛ましい形で示したといえるだろう。
Pt3:穴狩りの「実態」――現場でしかわからないこと
穴狩りに関して、ネットや報道で語られていることと、実際にハンターたちの間で共有されている認識には、かなりの乖離がある。ここを正直に書かないと、この記事の価値がないと思っている。
●「穴を知っている人間」が絶対的に不足している
環境省の担当者が取材に対して「昔のように、クマの穴を知っている人は少なくなった」と答えたことが報じられているが、これは本当のことだ。かつてマタギたちは、秋から冬にかけてクマの足跡や行動圏を追い、どこに入ったかを把握していた。そういう積み上げがあってこそ穴狩りは成立する。しかし現代は、ベテランハンターの高齢化と後継者不足が深刻で、地域の山を熟知した人間が激減している。「制度として穴狩りを可能にした」としても、「実際にやれるハンターがいるか」は全く別の話だ。
私の経験
私自身、山でベテランのハンターたちと行動を共にして感じることがある。クマの痕跡の読み方ひとつとっても、数年の経験では到底追いつかないものがある。爪痕の高さ、フンの内容物、倒木の掘り返し方……これらを総合して「このクマはどこへ向かっているか」を読むのは、まさに現場経験の積み重ねだ。穴狩りはその究極系であって、足跡を追い、行動圏を把握し、どの地形を好むかを知り、積雪の状態から穴の入り口を見つける。これができるハンターが今どれほどいるか、正直なところ疑問だ。
それでも、周囲の経験豊富なハンターたちが教えてくれることがある。「大木の根元の北側に雪がへこんだ場所があれば要注意」「穴の前に足跡がなくても、雪を掘って土が露出していたらクマが中にいることがある」といった、マニュアルには載らない現場の知恵だ。こういう知識が今、途切れかけている。
●穴狩りは「安全な猟」ではない
誤解を与えたくないので強調するが、穴狩りは決して「楽な猟」でも「安全な猟」でもない。冬眠中のクマは外から刺激を与えると突然飛び出してくる。その反応速度は常軌を逸している。マタギが「木のすき間を枝でつついたら上の穴からクマが顔を出した」というシーンがテレビで放映されたが、あれは熟練者が複数で連携した結果だ。単独で穴を覗き込んで確認しようとした場合、それは自殺行為に近い。
⚠️ 穴狩りに関するリスク——ハンターが知るべき最重要事項
●クマは「気絶」で冬眠しているわけではない。冬眠中も外部刺激に反応し、穴の外に飛び出す能力を保っている。刺激を与えた瞬間に突進してくる可能性がある。
●半矢の危険は穴の前では最悪の事態を招く。急所を外して逃げ出したクマが民家方向へ向かうリスクがある。確実に仕留められる体制が整っていないなら、入り口を刺激しないこと。
●母子グマの穴の可能性を常に考慮せよ。冬眠中の母グマは仔グマとともに穴にいることが多い。クマ猟の大原則「先に親を仕留めろ」はここでも有効だが、穴の中では親子を識別しにくい。
●単独行動は禁物。穴の前では射手・退路確保係・監視係の最低3人体制が理想。一人で山に入って穴を探し当てたとしても、それ以上進むべきではない。
●「春の猟」としての視点——残雪期の猟の優位性
穴狩りだけに焦点を当てると見えにくくなるが、春期管理捕獲の本質は「残雪期の優位性を活かした捕獲」全体にある。雪が残っている時期は足跡が残るためクマを追いやすく、植物の葉が茂っていないため見通しがよく、遠距離からでも狙いやすい。つまり、穴の中のクマだけでなく、冬眠を終えて動き始めたばかりのクマも対象だ。このフェーズのクマは体力が回復しきっておらず、行動範囲も限られている。夏秋に比べれば確実に捕獲効率は高い。
Pt4:賛否両論の構図——どちらの言い分も「正しい」理由
穴狩りの復活をめぐっては、強い賛否がある。「社会が越えてはならない一線」と主張する動物保護団体と、「早くやってほしかった」という被害地域の住民。この対立は単純な感情論ではなく、それぞれに一定の根拠がある。
保護側の主な主張はこうだ。冬眠中のクマは、そもそも何の被害も出していない個体だ。有害捕獲の原則は「問題を起こした個体を捕殺する」ことのはずで、寝ているだけのクマを山の中で殺すのは、その原則から逸脱している。また、母グマが殺されれば仔グマは確実に餓死し、経験不足の若い個体が人里に出やすくなるという逆効果も指摘される。
一方の管理側の論理も理解できる。個体数がこれほど増え、分布域が拡大した現在、単に「出た個体を駆除する」という後手後手の対応では追いつかない。人里近くで繁殖しているクマの「密度そのもの」を下げることが、長期的な被害減少につながる。北海道が春期管理捕獲に踏み切った目的のひとつが「人里周辺に生息・繁殖するヒグマの低密度化」であることは、まさにこの考え方に基づいている。
ただし、北海道の2年間の春期管理捕獲を見る限り、「捕獲数を増やす」という面では顕著な成果は出ていない、という評価もある。穴狩りの報告が2年間でゼロだったという事実は、先述した「できる人間がいない」という問題と表裏一体だろう。
Pt5:ハンターとして思うこと、そして読者への問いかけ
私の経験
私がハンターとして山に入り始めた頃、クマの存在は「気配」に過ぎなかった。足跡や爪痕を見つけることはあっても、クマ本体を見ることは少なかった。しかし最近は違う。周囲のハンター仲間から聞こえてくる話が変わってきた。「去年まで出なかった沢に入ったらクマのフンだらけだった」「林道に出てきたクマと目が合った」……こうした話が増えている。数字の上でも、生態の上でも、クマは確実に人間の生活圏に近づいてきている。
そんな状況の中で、私が一番もどかしく感じるのは、「制度はできたのに、できるハンターがいない」という現実だ。春期管理捕獲が解禁されても、穴の位置を知っているベテランがいなければ意味がない。ライフル銃を扱えるハンターが絶対的に少ない現状では、制度と現場能力の間に大きな溝がある。その溝を埋める努力——ベテランから若手への知識の継承、ハンター育成への行政支援——こそが、穴狩り論争の裏に隠れた本質的な課題だと感じている。
読者の方に問いたい。「穴狩りは残酷か否か」という感情的な二択ではなく、「クマとどう共存・管理していくか」という、より大きな問いに向き合えているか。田舎で農業を営む人、山を歩くハンター、都市に住む消費者——それぞれの立場で「クマ問題」のリアルは全く違う。その多様な視点を持つことが、まず第一歩だと思う。
では、読者は今何ができるか
ハンターを目指す人、あるいはすでに免許を持っている人へ。まず自分の地域のクマの生態・出没状況を継続的に把握してほしい。都道府県の鳥獣管理担当部署が出している情報や、猟友会内のネットワークを通じた情報収集は、現場力の基礎になる。そして、もしクマを扱う猟に関心があるなら、単独で動く前に必ずベテランに同行してほしい。クマは、経験と胆力と判断力が揃って初めて向き合える相手だ。
ハンターでない方へ。放棄された果樹や残渣、手入れされていない農地がクマを人里に誘引する大きな要因になっている。自分の土地のエサ資源の管理が、直接的なクマ被害防止につながる。防護柵の補助制度を活用したり、地域の有害鳥獣対策協議会に参加したりすることが、最も現実的なアクションだ。
まとめ:穴狩りの「復活」が示す、日本の狩猟文化の岐路
穴狩りが「復活した」というのは、半分正しく、半分は誇張だ。制度としては2023年の北海道に始まり、2025年の国の対策パッケージによって全国的な方向性が示された。しかし実際に穴狩りを実行できる人間は、今の日本にほとんど存在しない。マタギが口伝えで継承してきた「穴の知識」は、保護政策の時代に途絶えてしまったからだ。
問題の本質は、感情論ではない。クマの個体数管理・ハンター育成・地域の被害防除体制の整備、この三つを同時に進められるかどうかだ。穴狩りはその中のひとつの選択肢に過ぎず、それが効果を発揮するかどうかは、実施できる人材がいるかどうかにかかっている。
この問題に関心を持つすべての人に、ひとつお願いがある。報道やSNSの断片的な情報だけで結論を出さないでほしい。現場に近い情報に触れ続け、ハンターと農家と行政と研究者、それぞれの言葉を聞いてほしい。そしてもし狩猟に関わっているなら、自分のスキルを磨き、地域のクマ管理に関わる一員として動いてほしい。制度が変わるスピードより、現場の人材が育つスピードの方がどうしても遅い。その差を縮めていくのは、私たちハンター一人ひとりの積み重ねだと、私は信じている。
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現場の声を広げることが、より良い制度づくりにつながる。
出典・参考情報
- 東京新聞デジタル「禁じ手『ヒグマの穴狩り』再開2年目の北海道…過去には『絶滅政策』とも言われたその効果は?課題は?」2024年4月
- J-CASTニュース「『冬眠してる熊までも…酷すぎる』捕獲報道に反発の声 『穴狩り』が本当に復活?環境省などに聞いた」2026年1月
- 日本熊森協会「冬眠期および春グマ駆除の拡大に強く反対し…」公式サイト、2025年12月
- 日本クマネットワーク(JBN)「2025年秋季のクマ類を巡る状況に関する現状整理」2025年11月
- ウェザーニュース「近年、クマ被害が急増している理由 気候変動による影響は?」2025年11月
- 環境省「クマ類の出没対応マニュアル 改定版」2021年3月
- 北海道「春期管理捕獲実施要領」2024年1月公表版
- 東北森林管理局(試算):2025年冬眠穴閉塞期間に関するデータ。nebukuro.net経由で参照。

