「猟友会を通さなくていい」時代が来た?──農家と直接つながる新しいハンターの稼ぎ方と、その落とし穴
管理者より
少し前まで、農家からの獣害対策依頼は猟友会を通じて来るものだと思っていた。農家が市役所に電話して、市役所が猟友会に連絡して、猟友会が会員に割り振る──そういう流れが当たり前だった。ところが最近、まわりのハンターから「SNSで農家から直接連絡が来た」「知り合いの農家と直接契約している」という話をちょくちょく聞くようになった。狩猟と農業が直接つながる動きが、確実に広がっている。これはハンターにとってチャンスであり、同時に知らないと痛い目を見る落とし穴もある。両方の話をする。
はじめに
農林水産省の調査によれば、野生鳥獣による農業被害額は令和4年度で約156億円。シカ・イノシシ・サルが三大加害獣として知られるが、被害を受けた農家の多くは「どこに頼めばいいのかわからない」「猟友会に頼んだが対応が遅い」と感じているのが実態だ。一方でハンターの側には「もっと捕獲の機会がほしい」「副収入につなげたい」という需要がある。この需要と供給のミスマッチを解消しようとするサービスや仕組みが、今まさに生まれつつある。ただしそこには、知らないと違法になる手続きの問題も潜んでいる。
Pt1:「農家からの直接依頼」は実はグレーゾーン──まず法律を整理する
ここから始めなければ何も始まらない。農家からの依頼でイノシシやシカを捕獲することは、法律上どのような扱いになるのか。狩猟期間内と狩猟期間外で話がまったく変わるため、この区別を頭に入れておく必要がある。
狩猟期間内(11月〜翌2〜3月)の場合
狩猟免許を持ち、各都道府県に狩猟者登録をしているハンターは、定められた猟期内であれば合法的に捕獲できる。このとき農家から「うちの畑でやってほしい」という依頼を受けて対応することは、農家の土地への立入許可をもらうという意味では問題ない。ただしその農家から「報酬として金銭を受け取る」ことは、「業として行う捕獲」に当たる可能性があり、別途許可が必要になる場合があるため注意が必要だ。
狩猟期間外の場合(通年で依頼を受けたい場合)
猟期外に農家の依頼で捕獲を行うには、「鳥獣被害防止特措法」または「鳥獣保護管理法」に基づく有害鳥獣捕獲許可が必要だ。この許可は市区町村または都道府県が出すものであり、農家が「被害を受けている」という事実を届け出て、その農地での捕獲を許可してもらう形になる。ハンターが単独でこの許可を取ることはできず、農家または市区町村が申請主体となる。つまり農家が主導して許可を取り、ハンターはその許可の下で捕獲する、という構造が必要だ。
⚠️ 無許可での猟期外捕獲は鳥獣保護管理法違反
「農家に頼まれたから」「害獣だから」という理由で、猟期外に有害捕獲許可なしで捕獲を行うことは、鳥獣保護管理法違反となる。違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象だ。善意であっても法律は適用される。農家からの依頼を受ける前に、必ず許可の有無を確認する習慣をつけることが欠かせない。
① 農家
被害届を出す
申請書類を準備
ハンターを選ぶ
②市区町村
有害捕獲許可を発行
許可証を交付
捕獲数・期間を指定
③ ハンター
許可証を携帯して捕獲
標識・捕獲報告
報酬受取(要確認)
④捕獲後
捕獲数を市区町村へ
個体の処分・報告
豚熱防疫対応も必要
←
これが有害捕獲の
正しい流れ
Pt2:直接契約の実態──SNS・口コミで広がる農家とハンターの新しい関係
法的な整理はできた。では実際に農家とハンターが直接つながるとはどういうことなのか。近年、TwitterやInstagramで「うちの畑にイノシシが出ている。捕獲してくれるハンターを探している」という投稿をする農家が増えている。また農業系のFacebookグループや地域のコミュニティサイトでも同様のやりとりが見られる。猟友会に連絡しても動きが遅い、予算が限られていて業者には頼めないという農家が、個人のハンターを探すケースが現実に起きているのだ。
📰 実際の取り組み事例:熊本「くまもと☆農家ハンター」(NHK・農林水産省資料)
熊本県で若手農家を中心に組織された「くまもと☆農家ハンター」は、農家自身が狩猟免許を取得してイノシシを駆除する活動で注目された。農地の被害を受けた当事者が自らハンターになることで、許可取得から捕獲・報告まで一貫して行える体制をつくった。この取り組みは農林水産省の鳥獣被害対策優良活動事例にも選ばれており、「農家とハンターの境界をなくす」という新しい方向性を示している。自治体や猟友会を通さずに機能するモデルとして全国から視察を受けている。
こうした動きが広がる背景には、猟友会の高齢化と担い手不足がある。農家からの依頼が増えても、猟友会が対応しきれない場面が出てきている。そこに「農家ハンター」や「個人ハンター」が直接入り込む余地が生まれている。これはハンターにとって新しい活躍の場であり、農家にとっても柔軟な解決策だ。しかし当然、問題もある。
Pt3:直接契約の4つの落とし穴──知らないと後悔する現実
落とし穴①:保険が適用されない場面がある
猟友会を通じた有害駆除活動中の事故は、自治体が加入する保険や鳥獣被害対策総合補償制度が適用されることがある。しかし個人が農家と直接契約して行動した場合、その活動中の事故はどの保険でカバーされるのかが曖昧になりやすい。猟友会の共済保険は「狩猟行為中」を補償の対象としているが、「有害捕獲許可に基づく個人契約での捕獲活動中」がその対象に含まれるかどうかは、約款の確認が必要だ。活動前に加入している保険の補償範囲を確認することが不可欠だ。
落とし穴②:報酬の受け取り方を間違えると問題になる
農家から金銭的な報酬を受け取る場合、それが「業として行う捕獲」に当たるかどうかを慎重に判断する必要がある。「業として行う」場合は許可の条件が変わることがある。また確定申告が必要になる場合もある。少額の謝礼や農産物でのお礼であれば問題になりにくいが、継続的な有償サービスとして組み立てようとする場合は、税務・法律の両面で整理が必要になる。
落とし穴③:豚熱(CSF)防疫対応を怠ると行政処分の対象になる
現在、愛知県をはじめ多くの県でイノシシの豚熱(CSF)陽性確認が続いている。有害捕獲許可を受けてイノシシを捕獲した場合、捕獲個体の検体採取・報告・消毒などの防疫措置が義務付けられているエリアがある。これを怠ると行政から指導・処分の対象になりうる。農家との直接依頼でも、このルールは一切変わらない。
落とし穴④:トラブル時の責任が個人にすべて来る
猟友会を通じた活動であれば、トラブル発生時に猟友会が間に入って対応を助けてくれる場合がある。しかし個人で農家と直接契約している場合、何か問題(錯誤捕獲、隣地への無断立入、捕獲個体による損害など)が起きたとき、すべて個人の責任として対応しなければならない。「農家に頼まれたから」は法的な免責にはならない。
| 比較項目 | 猟友会経由の有害駆除 | 農家と直接契約 |
|---|---|---|
| 許可取得の手間 | 猟友会が代行することが多い | 農家または自分が手続きが必要 |
| 保険のカバー | 自治体・猟友会の補償が適用されやすい | 自分で加入している保険次第 |
| 報酬の柔軟性 | 行政の規定内に限られる | 農家との合意で設定できる |
| 活動範囲 | 許可エリア内に限定 | 同様に許可エリア内に限定 |
| トラブル時の対応 | 猟友会が関与できる場合あり | 個人での対応が原則 |
| 活動の自由度 | 猟友会のルールに従う | 裁量が大きい |
Pt4:農家との関係づくりが「副業」ではなく「地域への貢献」になる
正直に言うと、最初は「農家から依頼がくれば稼げる」という発想で動いていた時期がある。でも実際に農家と話していくと、そんな単純な話ではないと気づいた。農家にとって、獣害は毎年の収入に直結する死活問題だ。一方でハンターには、猟場を確保したい・捕獲の機会を増やしたいという動機がある。この双方の「切実さ」がかみ合ったとき、初めて本当に機能する関係が生まれる。
数年前、知り合いの農家から「畑にイノシシが毎晩入ってきて、もう限界だ」と連絡があった。猟友会を通じた有害駆除を申請したが、許可が下りるまでに時間がかかり、その間にもイノシシは出続けた。自分は当時猟期中だったので、農家の土地への立入許可をもらってわなを仕掛けた。結果、猟期終了前に2頭を捕獲できた。農家からは「助かった」という言葉をもらったが、それ以上に自分が感じたのは「役に立てた」という充実感だった。副収入云々ではなく、地域の農業を支えている感覚があった。それからその農家との関係が続いていて、今は猟期前に畑の状況を教えてもらいながら、翌シーズンの準備ができるようになっている。
この経験から思うのは、「農家とハンターの直接つながり」は、単なるビジネスマッチングでは機能しないということだ。信頼関係がベースになければ、「来てくれると思ったのに連絡が取れない」「約束した日に来なかった」というトラブルがすぐ起きる。農家はその畑に毎日通っている。ハンターは週に一度しか行けないかもしれない。そのギャップを事前に正直に話しておくことが、うまくいく直接契約の前提条件だ。
✅農家と直接連携するときの最低限の確認事項
まず活動時期が猟期内か猟期外かを確認し、猟期外なら有害捕獲許可の取得が必要なことを農家に伝える。次に捕獲した個体の処分方法(埋設・ジビエ業者への持込など)について農家と事前に合意しておく。さらに豚熱の陽性エリアに該当するかどうかを市区町村窓口で確認し、防疫措置の手順を把握しておく。最後に自分が加入している保険で活動中の事故がカバーされるか確認することも忘れないようにしたい。
もう一点、読者に伝えたいことがある。農家との関係は「1回の駆除」で終わらせないことだ。捕獲したあとも連絡を続け、フン・足跡・出没情報を共有してもらえる関係になれると、来シーズン以降の猟場情報として非常に価値が高くなる。農家は毎日その土地を見ている最高の情報源だ。そのことに気づいてから、農家との関係の見え方が変わった。
📌 農家との長期関係をつくるための3つの行動
捕獲結果だけでなく「出没の形跡がなかった」という情報も農家に伝える。捕獲した個体の写真や体重などをメモして共有すると、農家が被害状況を行政へ報告する際に役立つ。
そして何かあれば「今年は難しい」「状況が変わった」と正直に伝えることで、農家側も無理な期待をしなくなり、長続きする関係になる。
まとめ──つながりを正しく作れば、ハンターの価値は何倍にもなる
農家とハンターが直接つながる動きは確実に広がっている。猟友会を通さない形で依頼を受ける機会は、これからさらに増えるだろう。しかしそのためには、有害捕獲許可の仕組みを理解し、保険と法律の落とし穴を知り、農家との誠実な関係を作ることが前提だ。
副業や収入目的でもいい。でも最終的に農家に「またあの人に頼みたい」と思ってもらえるハンターが、地域の中で本当に必要とされる存在になれる。そのためにまず、自分の地域で有害捕獲許可がどう取れるかを、市区町村の農業担当窓口に一度問い合わせてみてほしい。その一歩が、全部の始まりだ。
🌾 農家の畑を守ることが、自分の猟場を守ることにもなる。今日、地域の農家に声をかけてみよう。
出典・参考資料
- 農林水産省「令和4年度 野生鳥獣による農業被害状況について」(被害額156億円)https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/attach/pdf/minou_higai-178.pdf
- 農林水産省「鳥獣被害対策の優良活動事例」(くまもと☆農家ハンターほか) https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/attach/pdf/index-12.pdf
- 環境省「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」第9条(有害鳥獣捕獲許可)https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000088/
- 農林水産省「鳥獣被害防止特別措置法(鳥獣被害防止特措法)」(市区町村が主体となる被害防止計画と捕獲許可の仕組み)https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/tokusou/index.html
- 農林水産省「捕獲した鳥獣に関する防疫上の措置(豚熱対応)」https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/csf_yaseichoju.html
- 農林水産省「鳥獣被害対策に役立つ情報(農家・猟師の連携事例)」https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/index.html
- 熊本県農林水産部「箱わなによる捕獲のすすめ(くまもと☆農家ハンターの取り組み)」
- 鳥獣被害対策ドットコム「有害鳥獣捕獲許可の取り方と手続き」https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/harmful-birds-animals
- 法人保険ラボ「施設賠償保険の必要性・わなのリスクに備える」(個人ハンターの保険の選択肢)https://houjinhoken-labo.com/facility-liability-insurance-hunting/

