【2026年最新版】獣による農作物被害の現状と対策|シカ・イノシシだけじゃない「本当の敵」は?
〜シカ・イノシシだけじゃない「本当の敵」とは?〜
初めに|数字を見て、正直ゾッとした
「188億円」という数字を初めて目にしたとき、正直、しばらく画面の前で固まってしまった。
農林水産省が公表した2024年度の野生鳥獣による農作物被害額だ。一時は減少傾向にあったのに、ここ数年でまた大幅に増え始めている。狩猟に興味を持ち始めて統計を調べていた自分にとって、これはひとごとではなかった。
この問題は「動物が増えた」だけでは語れない。農村の高齢化、耕作放棄地の拡大、狩猟者の減少——人間側の縮退と、動物側の増加が同時進行している。「人が減り、獣が増える」という構造的な負のスパイラルだ。この記事では、農林水産省のデータをもとにその実態を整理しながら、農家が取るべき対策と、狩猟者としての向き合い方を現場目線で解説していく。

全国の直近5年間の農作物被害推移
野生鳥獣による農作物被害額は、2010年度の約239億円をピークに、電気柵の普及や捕獲強化で一時は減少傾向をたどっていた。しかし、その流れが近年また逆転し始めている。
農林水産省のデータを見ると、2021年度・2022年度はほぼ横ばいの約155〜156億円だったのが、2023年度に約164億円、そして2024年度には約188億円と大幅に跳ね上がった。「ピーク時よりは下がっている」と言えばそうなのだが、近年の上昇曲線を見ていると、じわじわと焦りを感じる。
特に変わったのは、被害の「広がり方」だ。以前は特定の地域・特定の動物に集中していた被害が、近年は中山間地域を中心に広域化・多様化している。シカの個体数増加が主因とされているが、クマの出没急増、アライグマやハクビシンといった外来種の勢力拡大も、被害を底上げする要因として無視できない。
「対策を講じても、また増えている」という現実は、個別の農家レベルの努力だけでは限界があることを示しており、地域ぐるみ・行政ぐるみの抜本的な対応が求められている。
まず折れ線グラフから推移を見てみましょう。

最新のデータでの動物別農作物被害比較
「どの動物が、どれだけの被害を与えているか」——これを理解することが、対策の方向性を決める出発点になる。
令和5年度(2023年度)では、被害額全体のおよそ43%をシカが占めてダントツの1位。続いてイノシシが約22%、鳥類(ヒヨドリ・カラス・スズメ等)が約17%、クマ・サル・アライグマなどその他が残りの約18%だ。
令和6年度(2024年度)になると、総被害額が約188億円へ増える中でシカの割合はさらに拡大し、44〜45%程度に達したと推計される。イノシシは引き続き2位を維持しているが、クマによる被害が前年比で大幅に増加しており、件数・金額ともに存在感を増している。
見落としがちなのが鳥類の被害だ。ヒヨドリによるミカンやブドウの食害、カラスによるトウモロコシや果樹への被害は、金額以上に農家の精神的ダメージが大きい。シカ・イノシシ対策に手いっぱいで、鳥対策が後回しになっている農家は少なくない。また、関東・中部地方でのアライグマ・ハクビシン被害の増加も近年は顕著で、都市近郊農業にまで影響が及んでいる。
次の2枚の円グラフで、令和5年度と令和6年度の動物別被害割合の変化を表している。

被害が激しい地域と理由は?
被害は全国均一に起きているわけではない。地形・気候・農業構造・人口動態によって、深刻さには大きな差がある。
北海道
エゾシカの個体数増加は今も続いており、農作物への食害に加え、シカとの交通事故や林業被害も深刻化している。ヒグマの農村部への出没増加も続いており、人身被害のリスクは年々高まっている。
近畿・中国・四国・九州の中山間地域
イノシシとシカの複合被害が慢性化している地域だ。棚田や傾斜地農業が多く、電気柵の設置自体が難しいケースもあり、対策コストが農家の重い負担になっている。
関東・中部地方
外来種(アライグマ・ハクビシン)による被害が拡大しており、都市近郊の農業地帯にも被害が広がっている。
こうした地域差を生む要因は、「人間側の縮退」と「動物側の膨張」に整理できる。
人間側では、農村の高齢化・離農の加速が進んでいる。管理されなくなった耕作放棄地は動物の格好の餌場になり、草刈りが行き届かなくなれば農地と山林の境界が曖昧になる。さらに狩猟者の高齢化・減少による「捕獲圧の低下」は深刻で、かつては人の気配に警戒していた野生動物が、少しずつ人里に慣れ始めている。
動物側では、暖冬傾向による冬季の生存率向上が個体数増加に直結している。シカは繁殖力が高く、捕獲数を上回るペースで回復・増加し続けている。クマはドングリの凶作年に人里へ大量出没するパターンが繰り返されており、気候変動との関連も指摘されている。この「人間側の縮退」と「動物側の膨張」が同時進行することで、被害は構造的に増え続けている。
次の図はその構造を視覚化したもの。

被害への対策は?農家がやるべきことはこちら↓
「では、農家は何をすべきか」——答えはシンプルではないが、整理はできる。対策は「防御(柵)」「予防(環境管理)」「根本解決(捕獲)」「面的対応(地域連携)」の4層で考えることが重要で、どれか一つに頼るだけでは必ず限界が来る。
まず対策の全体像を確認してから、各手段の詳細に進みましょう。

① 環境管理(予防)
対策の第一歩は、動物を呼び込まない環境を作ることだ。収穫後の残渣・落果をそのまま放置するのは、「ここに餌がある」と動物に学習させているに等しい。農地周辺の草刈りや藪の除去も欠かせない。動物が身を隠せる植生がある限り、柵を設けても侵入リスクは下がらない。コストが低く即効性もある対策なのに、忙しい農家ほど後回しにしがちな分野だ。
② 侵入防止(防御)
費用対効果が最も高いのは電気柵だ。イノシシ・シカの両方に有効だが、「設置ミス」と「草刈りの怠慢」が効果をゼロにする二大原因になる。通電部分に草が触れると漏電して電圧が落ち、動物に「慣れ」が生じる。定期的な草刈りと電圧チェックは必須だ。ワイヤーメッシュ柵は初期コストはかかるが、一度設置すれば維持が楽で長期的な安定性に優れる。農地の形状・面積・対象動物に合わせた選択が重要になる。
③ 捕獲(根本解決)
柵はあくまで「農地を守る」対策であり、動物の個体数は減らせない。柵だけに頼ると、隣接農地に被害が移動するだけという結果になりがちだ。根本的な解決には捕獲が不可欠であり、ここで狩猟者の存在が重要になる。くくり罠はイノシシ・シカへの有効性とコスパの高さから最も広く使われており、箱罠はサル・アライグマ・ハクビシンなど小中型動物に向いている。捕獲後の処分・搬出を含めた体制づくりが、継続的な捕獲活動の条件になる。
④ 地域連携(効果の最大化)
個人レベルの対策には限界がある。農地の一角だけ完璧に防除しても、隣接する耕作放棄地から動物が侵入し続ければ意味がない。集落・地区単位で同時に対策を講じることで、効果は飛躍的に高まる。農林水産省は「鳥獣被害防止特措法」に基づく市町村の被害防止計画策定を支援しており、国の交付金を活用した集落ぐるみの取り組みが各地で進んでいる。猟友会との連携、ジビエ処理施設の整備も含めた地域全体の取り組みが、最終的に最大の効果をもたらす。
続いて、以下は動物別の対策手段をまとめた表を示している。

おまけ:狩猟に役立つリアルな知識
野生鳥獣による農作物被害を深く理解するには、各動物の生態を知ることが欠かせない。「なぜその動物が問題になるのか」を把握することで、対策の精度も上がる。
シカ
被害額トップに君臨し続ける理由は、繁殖力と適応能力の高さにある。メスは年に1頭の子を産むが生存率が高く、捕獲が増加ペースに追いつかない状況が続いている。草食性なので農地の作物をほぼ何でも食べ、高い跳躍力で一般的な柵を軽々と越える。しかも警戒心が強く、罠にかかりにくい——こうした特性が重なって、最大の被害源としての地位が揺るがない。
イノシシ
農作物を食べるだけでなく、土を掘り起こして農地を物理的に壊す。一晩で畑が壊滅的な状態になることも珍しくない。被害を受けた農家の精神的ダメージは甚大で、営農意欲の喪失・離農につながるケースも報告されている。学習能力が高く、電気柵の弱点(通電不良箇所)を見つけて突破するケースも確認されている。
クマ
ブナやコナラのドングリが不作の年には山の食料が不足し、クマが人里に下りてくるパターンが繰り返されている。近年は個体数自体の増加傾向も指摘されており、「凶作の年だけの問題」ではなくなりつつある。人身被害のリスクが非常に高いため、農家が単独で対応しようとすることは極めて危険だ。行政・猟友会との連携が不可欠になる。
一方で、こうした状況に明るい側面もある。ジビエ(野生鳥獣の食肉)の利用推進が国の政策として位置づけられ、シカ・イノシシを「害獣」から「資源」として捉える発想が広がっている。適切な処理・衛生管理のもとで食肉として流通させることで、農家への被害軽減と狩猟者の収益化を両立させる取り組みが各地で進んでいる。狩猟者の価値が、「害獣駆除の担い手」から「食の多様性と農業の守り手」として認識される時代に変わりつつある。
まとめ
野生鳥獣による農作物被害は、2024年度に約188億円という近年最大規模に達した。その主因はシカとイノシシだ。しかしこの問題を「動物が悪い」と単純化することはできない。背景には農村の高齢化・耕作放棄地の拡大・狩猟者の減少という人間側の構造的変化があり、動物側の個体数増加と合わさって「負のスパイラル」が形成されている。
対策は、防御・予防・捕獲・地域連携の4層を組み合わせることが基本だ。どれか一つに頼れば必ず限界が来る。特に「捕獲なくして根本解決なし」という事実は、狩猟者の社会的役割を改めて明確にしている。
被害が増え続けるこの状況を変えるには、担い手の増加が不可欠だ。免許を取得して地域の捕獲活動に加わること、ジビエという形で獲物を資源として活かすこと——そうした一人ひとりの行動の積み重ねが、日本の農業と自然の共存につながっていく。もし少しでも興味があるなら、まず情報収集から動き出してみてほしい。

管理者コメント
この記事を書きながら、「狩猟者がいなければ成立しない社会の仕組みがある」と改めて感じた。シカやイノシシの被害に苦しむ農家のニュースを見るたびに、自分もいち早く免許を取って力になりたいという気持ちが強くなる。数字で見ると被害の深刻さは想像以上だ。それでも、ジビエを通じた「害獣から資源へ」という流れには、この問題を前向きに変えていける可能性を感じる。狩猟は、自然と農業と地域をつなぐ、思った以上に大きな仕事なのかもしれない。
出典
- 農林水産省
野生鳥獣による農作物被害状況 農作物被害額の推移(年度別・動物別)に関するデータ:https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/index.html
鳥獣被害防止特措法(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律):https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/ - 環境省
鳥獣の保護及び管理に関する法律(鳥獣保護管理法):https://www.env.go.jp/nature/choju/index.html
クマ類の出没状況 クマによる人身被害件数・出没件数に関する記述:https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/index.html
注意事項
- 2025年度の被害額は暫定値・推計値であり、正式な統計公表後に数値が変わる可能性があります。
- 令和6年度(2024年度)の動物別被害割合は、農林水産省の正式公表前の暫定推計値を含みます。
- 記事内の数値は執筆時点(2025〜2026年)の最新データに基づいており、今後更新される可能性があります。最新の正確な数値は各省庁の公式サイトをご確認ください。
