狩猟保険、ちゃんと理解してる?「入ってるから大丈夫」が一番危ない!保険の盲点と正しい備え方を解説
共済保険・ハンター保険・わな保険・有害駆除保険まで──種類と補償の「ズレ」を知らないと、いざというとき払われない。
管理者より
狩猟免許を取ってしばらく経つが、保険については最初まったく理解していなかった。猟友会に入れば自動的に共済保険が付いてくることは知っていたが、「それだけで十分なのか」という問いに向き合ったのは、仲間から保険が使えなかった話を聞いてからだ。狩猟は楽しい。だからこそ、万が一のリスクをきちんと理解した上で続けたい。この記事では保険の種類と、知らないと後悔する「補償の穴」について、現場目線で正直に書いた。特に新しくハンターになった方、有害駆除にも関わっている方には必ず読んでほしい内容だ。
はじめに
狩猟には、ほかの趣味にはない種類のリスクがある。銃を扱えば誤射の可能性がゼロにはならないし、罠を仕掛ければ通行人や農作業者に思わぬ被害を与えかねない。それは「あってはならないこと」だが、「絶対にないこと」とは言い切れない。だからこそ法令上、狩猟者登録の条件として損害賠償能力(保険への加入)が義務づけられている。
問題は、「保険に入っている」という事実に安心しきって、その中身を一切確認しない人が多いことだ。猟友会員として共済保険が自動付帯されているのは事実だが、それが補償する範囲は思っているより狭い。趣味としての狩猟のみが対象で、有害駆除中の事故は基本的に別の保険が必要になる。さらに罠猟には銃猟用の「ハンター保険」が適用されない場合もある。こうした「補償の穴」を知らないままでいると、いざ事故が起きたとき「まさか払われないとは……」という最悪のシナリオが現実になる。
この記事では、狩猟に関わる保険の種類を整理しながら、何が補償されて何がされないのかを、できるだけ平易に、かつ正確に書く。保険の話は地味だが、ハンターとして活動を続けるための「命綱」に関わる話だ。
Pt1:そもそも「狩猟と保険」はなぜセットなのか
鳥獣保護管理法(第58条)の規定により、都道府県知事への狩猟者登録を受けるには、一定の損害賠償能力があることが条件とされている。具体的には「給付額が3,000万円以上」の共済事業への加入か、同等以上の損害保険への加入が必要だ。つまり保険なしでは合法的に狩猟ができない、というのが大前提だ。
なぜそこまで厳しいのか。それは狩猟が、他の多くの趣味と比べて「他人を傷つけるリスク」が構造的に高いからだ。環境省のデータによれば、平成10年度から平成28年度の約19年間で、狩猟や捕獲作業に伴う事故は約1,500件、死亡者は約150名、重傷者は約540名にのぼる。これは決して「昔の話」ではなく、近年も重篤な事故は継続して発生している。
📰 実際の事故例
2018年11月20日、北海道恵庭市の国有林で、ハンターの誤射により林野庁の森林官が死亡するという事故が発生した。ハンターは業務上過失致死で逮捕され、事故後には林野庁北海道森林管理局が道内国有林における狩猟を翌年3月末まで禁止・制限する異例の措置を取った(JBpress、2022年)。一方、京都府福知山市でも有害鳥獣駆除中に猟友会員が仲間を誤射し、両名が亡くなるという痛ましい事故も起きている(日本経済新聞、2010年)。このような重大事故が発生した際、被害者遺族への賠償は数千万円規模に及ぶことがあり、保険なしでは個人がとても負担できない金額になる。
こうした背景を踏まえれば、保険加入は「義務だからしぶしぶ」ではなく、「自分と被害者の両方を守るために不可欠なもの」として理解するべきだ。そしてその前提に立った上で、自分の狩猟活動に保険の補償がきちんと対応しているかを確認することが、本当の意味での「備え」になる。
Pt2:大日本猟友会の狩猟事故共済保険──基本にして最重要
都道府県猟友会を通じて大日本猟友会(以下、猟友会)に加入すると、狩猟事故共済保険が自動的に付帯される。昭和50年(1975年)創設のこの共済事業は、現在まで約90億円の保険金を給付してきた実績があり、ハンターの最初の「安全網」として機能している。
補償内容は主に3種類だ。他者への損害賠償(他損事故)については限度額4,000万円まで補償される。法令上の3,000万円要件を上回るため、これにより狩猟者登録が可能になる。次に、自分自身がケガをした場合(自損事故)については、死亡時に300万円、入通院7日以上の傷害には日額3,000円が支払われる。また、狩猟行為に起因する疾病で死亡した場合は100万円、持病等が原因の場合は20万円が支払われる。
共済保険の概要:
保険期間は毎年11月15日(一般解禁日)から翌年1年間の自動更新。掛金は第一種銃猟構成員が年間1,500円、わな・網猟等が750円と、非常に安価だ。ただしその分、補償の上限も限られている点を理解しておく必要がある。
この共済保険で特に重要なのが「法令上禁止された方法・場所での事故は対象外」という条件だ。禁止猟法(夜間照明を用いた銃猟など)や禁猟区域での事故には保険金が支払われない。当たり前のことのように見えて、「ルール違反で事故を起こした場合は無保険状態になる」という意味でもある。これは肝に銘じておくべきことだ。
📝 私の視点
免許を取りたてのハンターには、「猟友会に入れば保険がついてくる」という理解で満足している人は多いではないでしょうか。掛金が1,500円と格安なので逆に「本当に大丈夫なのか?」とも思っていたが、それは正直な疑問だったと今は思う。自損事故で死亡しても300万円、入院しても日額3,000円……これは決して十分ではないと、周りのハンターからも指摘を受けた。他損事故の4,000万円は手厚いが、自分がケガをした場合の補償は薄い。だからこそ「共済保険に加えて何かを足す」という発想が大切になる。
Pt3:ハンター保険(民間損保)の役割と補完機能
共済保険を「基礎」とすれば、民間損保のハンター保険はその補完・上乗せに当たる。三井住友海上や東京海上日動など複数の損保会社が取り扱っており、猟友会を通じて加入するケースが多い。ただし猟友会を通じず、他の狩猟者団体(一般社団法人猟協など)経由での加入も可能だ。「猟友会に入らないとハンター保険に加入できない」は誤解であることも覚えておいてほしい。
ハンター保険(生活総合保険)の補償内容は、大きく分けて賠償責任補償・傷害補償・猟具補償・猟犬死亡補償の4種類だ。賠償責任については最高1億円まで補償する商品もあり、共済保険の4,000万円をカバーするプラスアルファの安心感がある。傷害補償では死亡・後遺障害のほか、1日あたりの入院保険金や手術保険金が設定されている商品もある。また、猟銃や猟具の破損・盗難も補償対象になるなど、共済保険では拾えないリスクをカバーする。
賠償責任は共済でカバー、自分自身の傷害と猟具はハンター保険で補う──この2段構えが基本だ。
注意点は、一般的なハンター保険はあくまで「趣味としての狩猟」中の事故が対象であること。有害駆除(市町村からの依頼を受けた捕獲活動)中の事故は補償対象外になるケースがほとんどだ。この点は後述する有害駆除専用保険と混同しないよう注意が必要だ。
Pt4:罠猟に必要なわな保険(施設賠償責任保険)
これが意外と見落とされやすいポイントだ。銃猟向けのハンター保険は、「銃砲の使用」に起因する賠償責任を補償するものであり、罠猟(くくり罠・箱罠)についてはカバーされない場合がある。罠猟専門のハンターや、銃猟と罠猟の両方を行うハンターは、別途「わな保険」または「施設賠償責任保険」への加入を検討する必要がある。
施設賠償責任保険は、「施設(罠)の管理・所有・使用」から生じた損害賠償責任を補償するものだ。設置した罠に通行人や農家が誤って触れてケガをした場合、あるいは罠が作動して予期せぬ事態が起きた場合などが補償対象になる。個人での加入が可能で、一般社団法人猟協ではわな猟・網猟の会員向けに「わな保険(個人賠償責任保険)」を提供している。
⚠️ 注意
「一般的なハンター保険に入っている=罠の事故も補償される」は誤りだ。銃猟免許とわな猟免許の両方を持つハンターでも、ハンター保険が罠による賠償事故をカバーしているかどうかは契約内容による。保険証券を必ず確認し、不明な場合は保険会社に直接問い合わせてほしい。
罠を扱うハンターが増えている昨今、この「罠の賠償リスク」は軽視できない。特に農地周辺や林道近くに罠を設置する場合、第三者が接触するリスクは現実にある。罠猟をメインにしているなら、わな保険(施設賠償責任保険)は「任意」ではなく「実質必須」と考えたほうがいい。
📝 私の視点
仲間のわな猟専門のハンターが「自分のハンター保険が罠の事故をカバーしているか不明」と言っていて、一緒に証券を確認した。結果、彼の保険は銃猟賠償に特化した内容で、罠に関する記載はほぼなかった。確認して本当によかったと思った。もし確認せずにいて、罠に誰かが引っかかって大ケガをしていたら……と考えると、ぞっとする。
Pt5:有害駆除・鳥獣被害対策専用の事業保険
近年、ハンターが「趣味の狩猟」だけでなく、市区町村や都道府県から依頼を受けた有害駆除(鳥獣被害防止のための捕獲活動)に従事するケースが増えている。ここで知っておくべきことがある。共済保険もハンター保険も、有害駆除活動中の事故については補償対象外になる場合がほとんどだ。
そのために存在するのが、有害駆除・鳥獣被害対策に特化した「事業保険」だ。代表的なものとして、東京海上日動の「鳥獣被害対策総合補償制度」がある。この保険は都道府県・市区町村・狩猟者団体が加入対象で、個人での加入はできない。対象とする活動は、都道府県が主体となる鳥獣被害防止対策および指定管理鳥獣捕獲等事業だ。
この事業保険が一般的なハンター保険と最も違う点は、同士討ち(捕獲者同士の事故)も補償対象になること、手術保険金の支払いが可能なこと、そして組織(自治体・狩猟者団体)が法律上の損害賠償責任を負った場合も補償対象になることだ。2023年1月には静岡県で実施隊員が罠の使用中に車にひかれ死亡するという事故があったが、個人加入のハンター保険や共済保険では補償対象外となる一方、この事業保険では補償対象となったという事例がある。
有害駆除に参加しているハンターへ:
自分が従事している活動が「趣味としての狩猟」か「行政からの委託を受けた有害駆除」かによって、適用される保険が変わる。鳥獣被害対策実施隊員として認定されている場合は、自損事故に対して公務災害補償が適用されるかどうかも自治体によって異なる。活動前に必ず所属団体か自治体の担当部署に確認しておくことを強くすすめる。
Pt6:保険の種類と補償範囲まとめ一覧表
ここまでの内容を一覧で整理する。自分の活動スタイルと照らし合わせながら確認してほしい。
| 保険の種類 | 加入方法 | 主な補償対象 | 趣味狩猟 | 有害駆除 | 罠猟賠償 |
|---|---|---|---|---|---|
| 狩猟事故共済保険 大日本猟友会 | 猟友会加入で自動付帯 | 他損4,000万円・自損死亡300万円・疾病死亡100万円 | ✅ | ❌ | △(要確認) |
| ハンター保険(銃猟) 民間損保各社 | 猟友会・狩猟者団体経由 | 賠償責任(最高1億円)・傷害・猟具・猟犬 | ✅ | ❌ | ❌(別途要加入) |
| わな保険 (施設賠償責任保険) | 猟協等から個人加入可 | 罠設置・管理に起因する第三者への賠償責任 | ✅ | △(内容による) | ✅ |
| 鳥獣被害対策総合補償制度 東京海上日動等 | 自治体・狩猟者団体が加入 | 有害駆除・指定管理捕獲中の傷害・賠償・同士討ち含む | ❌ | ✅ | ✅ |
この表を見て「自分に足りていないものがある」と気づいた方は、ぜひ今シーズンが始まる前に確認してほしい。特にわな猟も行っていて、かつ有害駆除にも参加しているハンターは、共済保険とハンター保険だけでは補償に穴が空いている可能性が高い。
Pt7:「保険の落とし穴」
保険に関して、知っておかないと後で痛い目に遭う「落とし穴」がいくつかある。ここからは制度の外側にある、実態に近い話をまとめる。
「猟友会を通じて入るハンター保険」は都道府県によって内容が違う。同じ「ハンター保険」という名称でも、取り扱い損保会社や補償内容は都道府県の猟友会によって異なる場合がある。Aの県で加入している知人と同じだと思っていたら、補償額や補償範囲が違ったというケースは珍しくない。保険証券を手元に置き、自分で内容を確認することが最低限必要だ。
「任意団体」としての狩猟者団体が賠償責任を負うリスクがある。多くの地域猟友会は法人格を持たない「任意団体」だ。任意団体が損害賠償責任を負った場合、その構成員が連帯してその責任を分担することになるケースがある。つまり「俺は関係ない」では済まない可能性があり、事業保険(組織の賠償をカバーするもの)が重要になる背景はここにある。
自損事故の補償は思っているより薄い。猟友会共済の自損事故保険金(死亡300万円・入通院日額3,000円)は、長期入院や後遺障害が残った場合の実費をとても賄えない。銃猟中の転倒・暴発による自傷は現実に起きている。この点は一般的な傷害保険(日常の怪我に対応したもの)と組み合わせて補完することを考える価値がある。
📝 私の視点
周りのハンターで「保険の話は専門家に任せていて、詳細を把握していない」という人が意外に多い。自分も最初はそうだった。でもある猟友会の集まりで、過去に誤射事故を起こした方の話を聞く機会があり、ぞっとした。補償限度額を超える損害賠償を個人で支払うことになった事例があるという話だった。そのとき初めて「自分の保険の限度額を把握していない」ことに気づいた。帰宅後すぐに保険証券を引っ張り出して内容を確認した。それ以来、シーズン前に保険証券を確認することが習慣になっている。
特に銃猟ハンターは、「4,000万円じゃ足りないケースがある」という現実と向き合ってほしい。生命や重篤な後遺障害の場合、賠償額が1億円を超えることも裁判例では出ている。民間保険でどこまで上乗せするかは、自分の活動頻度やリスク感覚と相談しながら決めてほしい。
「わな保険の加入申込期限」に注意。一般社団法人猟協のわな保険は、申込期日が7月31日までと設定されている(2025年度の場合)。猟期が始まってから「入ろう」と思っても手遅れになることがある。余裕を持って事前に手続きを済ませる必要があるのだが、これを知らずに毎年ギリギリになる人を見かける。今年こそ早めに動いてほしい。
まとめ:シーズン前に、保険証券を一枚引っ張り出してほしい
狩猟の楽しさはどこにあるか、人それぞれだ。獲れたときの喜びであったり、自然の中に入ること自体であったり。でも、その楽しさを続けるための条件の一つが「万が一のリスクをきちんと管理していること」だと、経験を重ねるほど思うようになった。
保険は、事故が起きてから後悔するものだ。今は「何もないから大丈夫」と思っていても、誤射、罠への接触、有害駆除中の事故──いつどこで誰が当事者になるかは分からない。その時に「自分の保険でカバーされるのか」を理解しているかどうかが、天と地ほどの差になる。
まずは今の保険証券を手元に出して、補償内容を3点確認してほしい。①他損事故の補償限度額はいくらか。②わな猟の賠償もカバーされているか。③有害駆除中の事故は補償対象か。それだけでいい。確認してみて、不安があれば猟友会や損保会社に問い合わせを。それが今シーズン、最初にするべき準備だ。
出典・参考資料
- 大日本猟友会「狩猟事故共済保険」制度概要
j-hunters.com - 環境省「狩猟により生ずる損害賠償に係る共済事業」制度概要(PDF)
env.go.jp - 東京海上日動「鳥獣被害対策総合補償制度(施設賠償責任保険・総合生活保険)よくある質問」(PDF)
web-tac.co.jp - 東京海上日動「都道府県・猟友会向け保険制度」(PDF)
web-tac.co.jp - 近畿ブロック知事会「有害捕獲における適切な補償の整備とは」(PDF)
kouiki-kansai.jp - 一般社団法人猟協「ハンター保険/わな保険申込」ページ
hunters-cooperative.jp - 法人保険ラボ「施設賠償保険の必要性|猟(ハンティング)・わなのリスクに備える」
houjinhoken-labo.com - けもの道の狩猟ノート「狩猟事故・事件を防ぐ 近年の狩猟事故データから見えるもの」(環境省寄稿、2019年)
note.com - JBpress「ハンターが最も忌避すべきもの、誤射する可能性と される危険性」2022年
jbpress.ismedia.jp - 日本経済新聞「有害鳥獣駆除中、猟友会の2人死亡 京都の山」2010年
(日経電子版アーカイブ参照)

