「いい肉を獲ったのに売れない」は終わりにする──ジビエ認証と「ジビエハンター」制度が変えるハンターの立ち位置
2025年12月、国産ジビエ認証施設部会「認証ジビエコミッティ」が発足した。農林水産省のジビエハンター育成研修も本格化しつつある今、捕獲現場とジビエ流通の「断絶」を埋める動きが加速している。現場ハンターが知っておくべき制度の現実と、自分がどう関わるべきかを整理する。
管理者より
狩猟免許を取ってから、獲ったイノシシやシカをどう活かすかという問いに向き合い続けてきた。解体して食べるのは当然として、「もっと多くの人に届けられたら」と思う瞬間は何度もあった。でも現実は難しい。食肉処理業の許可、衛生管理の壁、流通のルート……。そこに「ジビエ認証」という制度がある。ただ、多くのハンターはその存在は知っていても、自分の猟とどう結びつくのかがわからないままでいる。今回は、制度の中身と「捕獲者としてできること」を現場目線で整理した。
はじめに:獲った肉の「その後」を考えたことがあるか
2023年度、全国でジビエとして利用されたシカは約12万1千頭、イノシシは約4万頭だ(農林水産省)。一方、同年度に捕獲されたシカ・イノシシの総数は数十万頭規模で、ジビエとして活用されているのはその一部にすぎない。獲れた個体の多くは山に埋めるか廃棄されている。この「もったいなさ」は、多くのハンターが感じていることだろう。
なぜ活用できないのか。理由のひとつは、食肉として流通させるためには食肉処理業の許可を持つ施設での処理が必要だという点だ。ハンターが山で獲った肉を直接販売したり、飲食店に持ち込んだりすることは原則できない。ここに大きな「壁」がある。そしてその壁を少しずつ乗り越えようとする動きが、今まさに加速している。
📰 ニュース:認証ジビエコミッティ発足、石破茂議連会長へ表敬(2025年12月)
2025年12月、一般社団法人国産ジビエ認証機構のもとに「国産ジビエ認証施設部会(認証ジビエコミッティ)」が発足した。認証を取得した施設が横断的に連携し、品質向上・情報共有・需要拡大に取り組む場として位置づけられており、石破茂ジビエ議連会長への表敬訪問も行われた(国産ジビエ認証機構公式サイト)。議連との連携強化は、制度の政治的後押しとして今後の予算措置・規制緩和に影響しうる動きだ。
この動きは、「処理施設が認証を取れば終わり」ではなく、認証施設同士が連携して業界全体を底上げしようという方向性を示している。そしてその流れの中で、捕獲者(ハンター)の役割も再定義されようとしている。
Pt1:国産ジビエ認証制度とは何か──ハンターが最低限知るべき構造
国産ジビエ認証制度は2018年5月に農林水産省が制定した。対象は「食肉処理施設」であり、ハンター個人が認証を取るものではない。厚生労働省のガイドライン(「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」)に基づいた衛生管理の遵守、カットチャートによる流通規格の統一、ラベル表示によるトレーサビリティの確保——これらをクリアした施設が「国産ジビエ認証マーク」を使用できる仕組みだ。
2025年3月末時点での認証施設数は全国30施設だ(農林水産省、令和6年度食料・農業・農村白書)。審査員は全国に13名、全員が獣医師資格を持つ現役のと畜検査員またはジビエ専門研究者だ。書類審査と現地審査をクリアした施設のみが認証を受けられる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制定年 | 2018年(平成30年)5月18日 |
| 認証対象 | 食肉処理施設(ハンター個人ではない) |
| 認証施設数 | 30施設(2025年3月末時点) |
| 対象動物 | シカ・イノシシ(国内で捕獲したもの) |
| 主な認証要件 | 衛生管理基準遵守 / カットチャート遵守 / トレーサビリティ確保 / ラベル表示遵守 |
| 認証機関 | 一般社団法人国産ジビエ認証機構(農林水産省登録) |
| 審査員 | 全国13名・全員獣医師資格保持者 |
※農林水産省「国産ジビエ認証制度」・一般社団法人国産ジビエ認証機構公式サイトより整理。

「認証マーク」が何を保証するのか
国産ジビエ認証マークが付いた肉は、「いつ・どこで・誰が捕獲して、どの施設でどのように処理されたか」が書類でたどれる状態になっている。消費者にとっての安心の根拠であると同時に、大手外食事業者が仕入れの判断基準として使うものでもある。認証施設から出荷された肉を使えば、飲食店や加工業者も認証マークを使用できるため、B to Bの取引において非常に強い信用力を持つ。
Pt2:「ジビエハンター」制度が動き出した──捕獲者への期待が変わっている
制度として最も注目すべきは、農林水産省が2023年度から開始した「ジビエハンター育成研修制度」だ。食肉に適した方法で捕獲から搬入までの衛生管理を学んだ捕獲従事者を「ジビエハンター」として育成し、認証施設との連携を強化しようという取り組みだ。
農林水産省の資料によると、2024年度までに計21回の研修が開催され、704人が受講した(農林水産省、令和6年度食料・農業・農村白書)。これはつまり、捕獲現場での「肉質へのこだわり」を研修で学んだハンターが全国に700人以上いるということだ。じわじわと、確実に増えている。
「ジビエハンター」が注目される理由──肉質は捕獲現場で決まる
ジビエの肉質に最も大きな影響を与えるのは、実は解体施設での処理よりも「捕獲から搬入まで」のプロセスだ。くくり罠で長時間暴れさせた個体は、ストレスホルモンの影響で肉が硬くなりやすく、風味にも影響が出る。銃での止め刺しか電気止め刺しで迅速に致死させ、速やかに放血・内臓摘出・冷却という流れを実行できるかどうかが、「売れる肉」か「廃棄される肉」かを分ける大きな要因だ。
💡 肉質を左右する「捕獲後の黄金時間」
捕獲後2時間以内の放血・内臓摘出が、肉質保持の目安とされている。気温が高い時期はさらに速い対応が求められる。「獲れたからとりあえず持ち帰ろう」という姿勢では、ジビエとして価値のある肉にはなりにくい。捕獲現場での迅速な処置が、そのまま肉の商品価値に直結する。
📝 私の経験
正直に言う。最初の頃、獲ったシカを引きずって下山して、夜になって「さあ解体しよう」となった時点でもう肉は温くなっていた。処理場に持ち込んだら「これは状態がよくない」と言われた。当時はよく意味がわからなかった。でも今は、肉質の問題が現場から始まっていることがよくわかる。捕獲直後の10分が肉の品質を決める——そう言われると大げさに聞こえるかもしれないが、実際に近い話だと思っている。
Pt3:認証制度の現実と課題──30施設という数字をどう読むか
認証施設数が30(2025年3月末時点)という数字は、制度発足から7年で到達した数だ。これを「少ない」と見るか「着実に増えている」と見るかは立場によるが、全国の食肉処理施設の総数と比べれば認証取得率はまだ低い。なぜ認証施設が増えにくいのか、現場の声を聞くと見えてくる点がある。
施設側の課題:コストと手続きの重さ
認証取得には書類整備、衛生管理体制の整備、定期的な細菌検査、更新審査などが必要で、小規模な施設には負担が重い。また、認証取得後も年次監査・更新手続きが続く。「認証を取りたいが人手がない」という施設が多く存在するのが現実だ。こうした課題を踏まえて農林水産省はHACCPの考え方を取り入れた小規模施設向け「衛生管理の手引書」を公開しており、認証機構も講習会を積極的に展開している。
捕獲者側の課題:施設との連携がそもそも薄い
もうひとつの現実がある。捕獲者(ハンター)と処理施設の間の連携が、多くの地域でまだ薄い。「獲って持ち込めばいいだろう」という感覚で施設との関係が終わっているケースも多く、施設側が必要としている「安定した供給量・品質の高い個体・捕獲時刻の事前連絡」といった情報が届いていない。
⚠️ ハンターが陥りやすい「もったいない」パターン
捕獲した個体を施設に持ち込む際、品質確認なしに「なんでも持ち込む」姿勢は、施設側の負担を増やし結果的に受け入れ拒否につながることもある。施設は食品事業者として品質管理の責任を負っており、状態の悪い個体を受け取ることにリスクを感じている。捕獲後の処理品質について施設と事前に話し合い、「どんな個体を求めているか」を把握してから動くことが重要だ。

Pt4:認証ジビエコミッティ発足の意味──施設連携が捕獲現場を変える
2025年12月に発足した「認証ジビエコミッティ」は、認証施設が横断的に連携する場だ。これがハンターにとって何を意味するのかを、少し丁寧に考えてみたい。
認証施設同士が連携すると、品質基準の共有・共同プロモーション・広域流通のノウハウ蓄積が可能になる。つまり「大分のシカ肉が東京の飲食店に並ぶ」「複数施設の肉が束ねてブランド化される」といったことが現実に近づく。そうなると、どの施設に肉を持ち込むかという選択肢が捕獲者にとっても広がり、ハンターと施設の関係がより「対等なビジネスパートナー」に近づく可能性がある。
また、石破茂ジビエ議連会長との連携が強まることは、政治的に予算・規制緩和・広域搬送インフラへの支援が期待できる動きだ。農林水産省はすでに「広域搬入機器(解体機能を有する車両等)」の開発支援を行っており、こうした機器の普及が進めば、山から施設への搬送効率が上がり、捕獲現場とジビエ流通の断絶が縮まっていく。
📌 大分県の先進事例:捕獲から学校給食まで地域一体の仕組み
大分県では、県・市町村・猟友会・23の処理加工施設が連携し、捕獲から搬送・集荷・処理加工・販売までを地域一体で担う体制を構築している。学校給食でのジビエ利用を定着させ、栄養士やPTAへの説明会・子供向けメニュー開発も実施している。捕獲者が地域の流通体制の中に組み込まれている好例であり、全国のモデルとなりうる取り組みだ(農林水産省、令和6年度食料・農業・農村白書)。
Pt5:「ジビエハンター研修」を受ける価値はあるか
正直なところ、「ジビエハンター研修」という名前を最初に聞いたとき、「また資格商法みたいなやつか」という斜め目線で見ていた。ところが、内容を調べてみると印象が変わった。衛生管理の基礎、捕獲後の適切な放血・内臓摘出の順序、冷却のタイミング、施設への搬入方法——これは「ジビエを売りたい人向けの情報」ではなく、「肉の品質を理解したハンターが知るべき知識」そのものだった。
📝 私の経験
地元の猟友会仲間が研修を受けてきて、「捕獲後30分以内に内臓を摘出しないと肉が台無しになる場合がある」という話を持ち帰った。それまで自分は「帰宅してからゆっくり解体すればいい」と思っていたから、かなりの衝撃だった。今は夏場の捕獲後は特に急いで処置するようにしている。ジビエとして売る予定がなくても、自分や家族が食べる肉の品質のために知っておくべき情報だと感じた。
ジビエハンター研修、受けるかどうかの判断軸
農林水産省の研修(農林水産省鳥獣被害防止総合対策交付金・利活用技術者育成研修事業)は全国各地で開催されており、受講者には修了証が交付される。ジビエとして販売するつもりがなくても、自家消費の肉質向上や、認証施設への持ち込みを考えているなら受ける価値は十分ある。研修は一日程度で完結するものも多く、猟期外の時間を活用しやすい。
💡 研修情報の探し方
農林水産省の「ジビエ利用拡大コーナー」(maff.go.jp)や、一般社団法人国産ジビエ認証機構のウェブサイト(cert-gibier.or.jp)の「講習・イベントカレンダー」で開催日程・場所が確認できる。各都道府県の鳥獣被害対策担当部署が主催するケースもあるため、都道府県のウェブサイトも確認してほしい。
Pt6:ハンターが今すぐできること──「捕獲者として制度につながる」ステップ
制度の話が難しく聞こえたかもしれないが、実際にやることは難しくない。今日からできる「ジビエ認証体制とのつながり方」を整理しておく。
01
最寄りの認証施設を把握する
農林水産省「認証施設地図」(maff.go.jp)で全国30施設を確認。自分の猟場から搬入できる施設があるかどうかを調べる。近くになければ、認証外施設との連携も含めて検討する。
02
施設に「どんな個体が必要か」を聞く
認証施設または地域のジビエ処理施設に連絡し、「受け入れ可能な個体の条件(サイズ・状態・時期など)」「持ち込み方法・事前連絡の要否」を確認する。これをせずに持ち込むのは非効率だ。
03
ジビエハンター研修の受講を検討する
農林水産省主催・各都道府県主催の研修を調べて受講を検討。自家消費であっても、肉質に関する知識は猟の質を上げる。研修修了者として施設との関係づくりにも使える。
04
捕獲後の処理プロセスを見直す
捕獲後2時間以内の放血・内臓摘出を意識し、夏場は特に速やかな冷却を徹底する。電気止め刺しによる迅速な致死も肉質向上に直結する。「売れる肉」は猟場で作られる。
まとめ:捕獲者の「価値」は、これから制度の中で問われ始める
ジビエ認証制度は「処理施設の話」ではなく、捕獲現場から始まる品質管理の話だ。どんな個体を、どのタイミングで、どの状態で処理するか——その一連の行為がジビエの価値を決める。そして今、その価値を評価する仕組みが、制度として整備されつつある。
あなたが獲った肉が、認証施設を経て東京のレストランに並ぶ日はそう遠くないかもしれない。そのための最初の一歩は、最寄りの認証施設を調べることと、施設に「どんな個体が欲しいか」を聞くことだ。今日、農林水産省の認証施設地図を開いてほしい。
「いい肉を獲ったのに売れない」という悔しさを知っているハンターほど、この制度変化のスピードを実感できるはずだ。制度は使わなければ意味がない。動いた人間が次の仕組みを作る。
出典・参考資料
- 農林水産省「国産ジビエ認証制度」 https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/ninsyou.html
- 農林水産省「国産ジビエ認証制度の制定について」(平成30年5月18日)https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/tyozyu/180518.html
- 農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」第7節 鳥獣被害対策とジビエ利活用の促進 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap7/c7_7_00.html
- 一般社団法人国産ジビエ認証機構「国産ジビエ認証施設部会(認証ジビエコミッティ)が発足|石破茂ジビエ議連会長への表敬訪問と今後の展望」(2025年12月)https://cert.gibier.or.jp/
- 一般社団法人国産ジビエ認証機構「国産ジビエ認証について」https://cert.gibier.or.jp/certification/
- 株式会社一成「ジビエハンターとは」https://www.issei-eco.com/jibie/hunter/
- 株式会社一成「国産ジビエ認証とは」https://www.issei-eco.com/jibie/certification/whats/
- 農林水産省「国産ジビエ認証機関の募集について」https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/ninsyokikan_boshu.html
- ジビエポータルサイト「ジビエト」「国産ジビエ認証制度について」https://gibierto.jp/content/certification/
- 厚生労働省「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」(平成26年11月)

