止め刺しを間違えると法律違反になる──わな猟師が知るべき適法・安全な止め刺しの全手順
「なんとなく」でやっていないか。苦痛を与えない方法は法的義務であり、手順を誤ればハンターが重傷を負う。動物愛護法・鳥獣保護管理法の根拠から電気式止め刺し機の実際まで、現場目線で徹底解説する。
管理者より
狩猟免許を取ってから、わな猟でイノシシを追い続けてきた。止め刺しは毎回緊張する。怖い、というのが正直な感情だ。しかしその怖さ以上に、「正しくやれているか」への不安がずっとある。法的に義務付けられた「苦痛を与えない方法」を実は誰にもきちんと教わっていないハンターが多い、という話は現場でよく聞く。自分自身も最初はそうだった。この記事はそういう人のために書いた。
はじめに:わな猟で「一番難しい」のは、実は止め刺しだ
くくり罠や箱罠を仕掛け、翌朝かかっているのを発見したとき、猟の本番はそこから始まる。ワイヤーの先で暴れるイノシシを前に、何をどの順番でやればいいか──そこを正確に理解していないハンターが、ベテランを含めて多い。そして毎年、止め刺し中の事故が繰り返されている。
止め刺しは単なる「仕上げ作業」ではない。法律上の義務が伴い、安全への配慮が必要で、かつ動物への敬意も問われる行為だ。「なんとなく先輩を見て覚えた」という人は、この記事を読んで一度立ち止まってほしい。
📰 実例:箱わな近くで猟友会員2名が死亡(2025年6月・徳島市)
2025年6月26日夜、徳島市渋野町の山中で、猟友会メンバーの男性(75歳)と男性(76歳)の2名が箱わな近くで倒れているのが発見され、その場で死亡が確認された。2名のズボンは破れ、手足に複数の傷を負っており、イノシシに襲われた可能性があるとして警察が調査(上毛新聞・MBSニュース)。止め刺し中の事故がいかに重大であるかを物語る事例だ。
止め刺し事故はこの例だけではない。経験年数が多いベテランほど慢心による事故が起きやすいという現実もある。狩猟歴52年の猟師がシカに2m吹き飛ばされた事例、狩猟歴40年のハンターがワイヤーを切ったイノシシに反撃された事例……。毎年のように止め刺し事故は全国で報告されている。
Pt1:法律の根拠:「苦痛を与えない方法」は義務であって、任意ではない
多くのハンターが曖昧にしている点がここだ。止め刺しの方法は個人の判断に委ねられているわけではない。動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)第40条は、「動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によらなければならない」と明記している。
さらに鳥獣保護管理法および施行規則では、狩猟・許可捕獲において「動物に必要以上に苦痛を与えない、また人への害の恐れがない指定猟法でのみ狩猟可」とされており、法令上の根拠は明確だ。これは「やった方がよい」ではなく、法的に課せられた義務だ。
⚠️ 違反した場合のリスク
鳥獣保護管理法に違反して鳥獣を不適切に捕獲・殺傷した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処される(鳥獣保護管理法・環境省)。方法を誤れば「違法な止め刺し」となりうる点を、まず認識してほしい。
「苦痛を与えない方法」として認められているのは何か
自分が今使っている方法は、「できる限り苦痛を与えない」という基準を満たしているか?
東京都「第13次鳥獣保護管理事業計画」に基づく資料では、捕獲した鳥獣を致死させる場合のできる限り苦痛を与えない方法として、以下の3系統が示されている。ただし、大型哺乳類(イノシシ・シカ等)への適否は方法によって異なり、銃および薬物(麻酔薬等)は狩猟免許・薬剤使用資格が必要だ。
| 方法 | 免許・資格 | 大型哺乳類への適性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 銃器(射撃) | 第一種銃猟免許必要 | ◎ 最も安全・確実 | 近年、罠止め刺しでの銃使用要件が緩和 |
| 電気止め刺し | 免許不要 | ○ 推奨(都の計画でも明記) | 出血なし・精神的負担軽減・迅速 |
| 刃物(ナイフ等) | 免許不要 | △ 保定が必須・危険を伴う | 急所への確実な一撃が条件 |
| 殴打(棍棒等) | 免許不要 | △ 大型個体には不十分な場合あり | 昏倒後に急所刺しが必要 |
| 薬物(麻酔等) | 免許保有者のみ | - わな猟師が単独使用は困難 | 獣医師等との連携が現実的 |
※東京都「第13次鳥獣保護管理事業計画」資料および各種行政文書に基づく整理。
重要なのは、「電気止め刺しは狩猟免許がなくても実施できる」という点だ。東京都の資料では、「電気止めさしは免許取得の必要がなく、出血を伴わないため捕獲従事者の精神的な負担の軽減が図られる方法」として明示されており、第13次鳥獣保護管理事業計画の推奨方法として位置づけられている。
Pt2:現場の安全:止め刺しで死傷事故が起きる「本当の理由」
止め刺し事故の原因のほとんどは、「まだ大丈夫だろう」という慢心と、準備不足だ。いくら経験を積んでも、罠にかかったイノシシは毎回違う状況に置かれており、「いつもと同じ」という前提で近づくことが最大のリスクになる。
現場に近づく前に必ず確認すべきこと
罠を確認しに行くとき、まず罠の全体が見渡せる位置から観察する。イノシシはヤブの中に潜んでじっとしていることが多く、不意に近づくと突進を受ける。「地面が掘り返されているか」「ワイヤーが張っているか」「周囲の木がなぎ倒されていないか」を距離を置いて確認してから近づく。
くくりわなの場合、ワイヤーが獲物の足に浅くかかっていたり、キンク(折れ・よれ)が生じていたりすると、急にすっぽ抜けて突進されるリスクがある。ワイヤーに異常を感じたら絶対に近寄らない。銃による止め刺しができる人に応援を求めること。これは恥ずかしいことではなく、正しい判断だ。
📝 私の経験
最初の頃、くくり罠にかかったイノシシを1人で処理しようとして、近づいた瞬間に突進されてとっさに木の後ろに飛び込んだことがある。体は無事だったが、正直、肝を冷やした。あのとき先輩に「一人でやるな、ワイヤーの状態を遠くから確認してから近づけ」と怒鳴られた。今でもその言葉は忘れていない。保定なしで刃物を持って近づくのは、どれだけ慣れていても危険だ。
「土俵」を理解する──移動可能範囲を把握せよ
くくりわなにかかったイノシシは、地面を鼻先で掘り返す。この掘り返し跡を「土俵」と呼ぶが、これはそのままイノシシが動ける範囲を示している。土俵の外側にいれば反撃は受けにくいが、ワイヤーが絡んでいたり根付けの木が折れかかっていたりする場合は、想定以上に動ける範囲が広くなることがある。土俵が不自然な形をしていたら、トラブルが隠れているサインだ。
⚡ 現場で即死傷につながる行動パターン
獲物が動いている状態での「ワイヤーの切断」は最悪の行動だ。ワイヤーを切った瞬間、全速力で突進してきたイノシシはもはや止める手段がない。止め刺し前にワイヤーを切ることは、絶対にしてはならない。また、倒れた状態や弱っているように見えても、イノシシは急に復活することがある(電気止め刺し後も同様)。完全に絶命するまで油断しないこと。
Pt3:止め刺しの全手順:保定→致死→確認の4ステップ
安全で適法な止め刺しは、「観察(安全確認)→保定(動きを封じる)→致死(できる限り苦痛を与えない方法)→確認(完全な絶命の確認)」の4ステップで構成される。この順序を省略しないことが絶対条件だ。
01
遠距離観察:安全確認と状況把握
罠全体が見える位置(10〜20m程度)から、ワイヤー・足の掛かり具合・地面の状態・獲物の位置と動きを確認する。双眼鏡があれば活用する。不安な点があれば無理に近づかない。
02
保定(補てい):動きを確実に封じる
鼻くくり・チョン掛け・足錠などを使って獲物の動きをさらに制限する。くくりわなのイノシシに対しては鼻くくりが最も有効。箱罠では電気止め刺し機のアース取り付けもこの段階で行う。保定が不十分な状態では絶対に近づかない。
03
致死:苦痛を最小化した方法で確実に
保定完了後に致死処理を行う。電気止め刺し・銃射撃・ナイフ等を使用。いずれの方法でも「できる限り苦痛を与えない方法」が法的要件。中途半端な処置は絶対に避ける。
04
確認:完全絶命の確認
呼吸・瞳孔散大・反応のなさを確認してから次の作業(解体等)に移る。電気止め刺し後でも「復活」する個体があるため、油断しない。確認できるまでは一定の距離を保つ。
罠の種類別:止め刺し方法の違い
| 罠の種類 | 推奨方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 箱罠 | 電気止め刺し(1本槍型) | 罠の鉄骨にアース接続、塗装部分はヤスリで除去してから接続。入口側に獲物を誘導して突き刺し位置を確保。 |
| くくりわな | 電気止め刺し(2本槍型)+鼻くくり必須 | 鼻くくりなしのくくりわな使用は非推奨。傾斜地では斜面上側から作業。ワイヤー異常時は銃猟免許者への応援要請。 |
| くくりわな(銃使用可能な場合) | 銃による止め刺し | 「動きが固定できない」「生命身体への危害のおそれ」「罠仕掛け者の同意」「安全性確保」の4要件を満たす場合に限り可(近年の制度改正)。 |
Pt4:電気止め刺し機の実際──なぜ今、これが推奨されるのか
近年、電気止め刺し機の普及が急速に進んでいる。その背景には、「血を見なくて済む」「騒音がない」「迅速で確実」「精神的負担が少ない」「狩猟免許不要」という実用的なメリットがある。東京都の鳥獣保護管理事業計画でも、人手不足への対応の観点から推奨される方法として明記された。
仕組みと使い方の基本
電気止め刺し機は、バッテリー(12V)→インバーター(100V昇圧)→槍先の電極という構成で電流を流す。槍先を獲物の体に刺して通電させることで、心停止・脳死を引き起こす。箱罠では1本槍+アースクリップの組み合わせが多く、くくりわなでは2本槍型を使う。
使用時に必ず着用が必要なのは絶縁ゴム手袋とゴム長靴だ。雨天での使用は絶対に避けること。また、一度獲物が倒れても復活する場合があるため、スイッチを切った後も近づく前に必ず反応を確認する。
💡 電気止め刺し機の選び方ポイント
箱罠専用(1本槍)とくくりわな対応(2本槍)は構造が異なる。くくりわなで1本槍を使う場合はアース取り付けが難しいケースが多いため、2本槍型が推奨。槍先は定期的にヤスリで研いでおくと皮への刺入がスムーズになる。バッテリーは満充電で20回程度の使用が目安。安全機構(スイッチ押し時のみ通電、誤ショート時の保護回路)があるモデルを選ぶこと。

ナイフによる止め刺し:保定が完璧な場合のみ
ナイフを使った止め刺しは、保定が完全にできている場合に限り有効だ。急所は心臓に近い胸部(前足の付け根の内側・腋下部分)であり、そこへナイフを深く入れて確実に血管を断ち切ることで失血死を図る。しかし動いている状態での刃物使用は自分が負傷するリスクが非常に高いため、保定が不十分な状態での刃物使用は厳禁だ。
なお、殴打による昏倒は「大型のイノシシへの使用にあまり適切ではない」と行政文書でも明示されている。昏倒後は必ず急所への刃物止め刺しが必要であり、昏倒だけで終わりにすることは法的要件を満たさない。
Pt5:「正しく教わっていない」ことへの危機感
免許取得後、実際の止め刺しを誰かにきちんと教えてもらえたハンターは多くない。試験では机上の知識を問われるが、「電気が何ボルトで何秒流せば確実か」「保定が外れたときどうするか」「ワイヤーが切れかかっているときどう判断するか」は、試験には出てこない。
📝 私の経験
自分が電気止め刺し機を使い始めたのは、仲間の誰かに勧められたのがきっかけだった。最初は「機械に頼るのはどうなんだ」という変な抵抗感があった。でも実際に使ってみて、その速さと確実性に驚いた。なにより、獲物が苦しむ時間が圧倒的に短くなった。それ以来、箱罠では必ず電気止め刺しを使っている。「手を汚さないのはずるい」というような感覚は完全に消えた。獲物への敬意は道具の種類ではなく、確実に、苦しまずに仕留めることで示すものだと今は思っている。
止め刺しは「怖い」からこそ、事前に十分準備して、仲間と情報を共有しながらやるべき作業だ。一人でやり切ることにこだわらないこと。無理だと思ったら助けを求めること。それがわな猟師としての正しい姿勢だ、と今は確信している。
あなたの猟友会では、止め刺しの正しい方法を共有する機会があるか?
Pt6:今すぐ確認・整備すべきこと──現場に向かう前のチェックリスト
🗒 止め刺しの安全・適法チェックリスト
- 電気止め刺し機(またはそれに代わる方法)を準備・携行しているか
- ゴム手袋・ゴム長靴を着用しているか(電気使用時は必須)
- 鼻くくり・保定具を装備しているか(特にくくりわな)
- 罠に近づく前に遠距離から全体観察をしているか
- ワイヤーのキンク(折れ・よれ)がないか確認しているか
- 獲物の「土俵」範囲を把握してから近づいているか
- 保定が完了してから致死処理に入っているか
- 致死後に完全絶命を確認してから次の作業に移っているか
- 銃猟免許を持つ仲間との連携体制を確保しているか
- 単独での止め刺しを避け、複数人で作業しているか(特に大型個体)
まとめ:止め刺しは「作業」ではなく「命と向き合う行為」だ
止め刺しを間違えれば法律違反になる。止め刺しを間違えれば自分が死傷する。止め刺しを間違えれば獲物を無用に苦しめる。この3つのリスクが重なっているのが止め刺しという行為だ。
今日から、電気止め刺し機を装備に加えることを真剣に検討してほしい。免許不要、出血なし、確実性が高い──それだけでも採用する理由として十分だ。
わな猟師は、罠を仕掛けた瞬間から「捕獲後の責任」を負っている。正しく、迅速に、苦痛を最小にして仕留めることは、法的義務であると同時に、猟師としての誠実さの表れだ。事故を起こしてからでは遅い。今この瞬間に、自分の止め刺しの方法を見直してほしい。
出典・参考資料
- 動物の愛護及び管理に関する法律 第40条(動物を殺さなければならない場合の苦痛軽減義務)
- 東京都「第13次鳥獣保護管理事業計画における捕獲した鳥獣を致死させる場合のできる限り苦痛を与えない方法」資料
- 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)
- 環境省「野生鳥獣の違法捕獲の防止」https://www.env.go.jp/nature/choju/capture/capture2.html
- MBSニュース・上毛新聞「わなにかかったイノシシを見に行った男性2人が死亡(徳島市)」(2025年6月)
- 上毛新聞「わなが外れたイノシシに猟友会員2名が重傷(群馬県富岡市)」(2023年11月)
- 新狩猟世界「怒れる獣は恐ろしい!罠の止め刺し 保定・拘束技術の基本」https://chikatoshoukai.com/
- 新狩猟世界「銃殺・電殺・殴打 罠の止め刺しを安全に行うためのポイント」
- イノシシ対策の知恵袋「イノシシの止め刺し 補てい具(保定具)を使って安全に止め刺しを行う方法」
- くくりカレッジ「くくり罠猟で発生する事故4大事例と回避方法」https://kukuricollege.com/accident/
- 太田製作所・オーエスピー商会 電気止め刺しキット製品説明
- 鳥獣被害対策ドットコム「罠で捕獲をお考えの方へ」

