なぜ今、狩猟免許を取りたい人が増えているのか?クマ被害と安全対策、2026年の試験動向も解説
初めに|静かに広がっている、あの切実な動機
狩猟免許の取得を目指す人が、静かに増えている。
ここ数年で、いわゆるZ世代が狩猟への関心が体感として増えた。自分が免許を取ったのは何年か前のことだが、当時と今では「なぜ免許を取るのか」という動機が明らかに変わってきている。
昔は「猟が好きだから」「親父の影響で」という人がほとんどだった。でも今は違う。「クマが出て、地域が困っているから」「農作物の被害を何とかしたくて」という切実な理由で来る人が増えている。自分の周りのハンターたちも、そういう入口から始めた人が多い。
この記事では、「なぜ今、狩猟免許を取りたい人が増えているのか」「2026年の試験動向はどうなっているのか」「安全に学ぶには何を準備すべきか」を、現場の経験も交えながら整理していく。

狩猟免許とは?何ができるようになるのか
狩猟免許は、野生の鳥獣を合法的に捕獲するために必要な国家資格だ。鳥獣保護管理法に基づいて都道府県が実施する試験に合格することで取得でき、免許の種類によって使える猟具や対象動物が変わる。
種類は大きく4つ。第一種銃猟免許(ライフル銃・散弾銃)、第二種銃猟免許(空気銃)、わな猟免許、網猟免許だ。新規取得者の多くは、わな猟免許か第一種銃猟免許から始めるケースが一般的だ。
免許取得を通じて学ぶのは、単に「捕まえ方」だけじゃない。法令・ルール(捕獲できる対象、禁止事項、各種手続き)、安全管理(銃・罠の扱い、危険回避)、獣の取り扱い(衛生管理、作業上の注意)、現場での判断力(危険状況の認識と事故防止)——これだけの内容が含まれる。
免許はあくまでスタートラインだ。取ったからといって「もう大丈夫」では全然ない。どんなに経験豊富なハンターでも、現場に出るたびに学ぶことがある。
改めて確認しておくと、取得を通じて習得する主な領域はこのとおりだ。
- 法令・ルール(捕獲できる対象、禁止事項、手続き)
- 安全(銃・罠の扱い、危険回避の考え方)
- 獣の取り扱い(捕獲の考え方、衛生や作業の注意)
- 現場での判断(危険状況や事故防止)
取得希望者が増える大きな理由1:災害級とされるクマ被害の増加
狩猟免許の取得希望者が増えている最大の要因は、やはりクマ被害の拡大だろう。環境省の統計によれば、ツキノワグマ・ヒグマによる人身被害件数は近年急増しており、特に2023年度は過去最多水準を更新した。死者が出るような深刻な事故も相次ぎ、「災害級」という言葉が専門家の口からも出るほどの状況だ。
かつてクマは「山奥にいる動物」だった。自分が初めて山に入ったとき、クマの痕跡は確かに奥山にしかなかった。それが今は違う。里山の荒廃やドングリ類の不作などを背景に、人の生活圏のすぐそばまで出てくるようになっている。農作物・畜産物への被害はもちろん、登下校中の子どもや農作業中の高齢者が襲われる——そんなニュースが毎年出るのだから、地域住民の不安は当然だ。
「捕獲の担い手が足りない」という問題は、自分の地域でも肌で感じる。ベテランが引退し、後継者が追いつかない。行政や猟友会が新規取得者の確保に力を入れ始めているのも、その焦りからきている。クマが人里近くに現れるようになった今、地域が受ける影響は多面的だ。人身被害への不安、農作物や畜産物への食害、見回りや夜間対応といった日常の緊張感——その積み重ねが、「自分にも何かできないか」という気持ちを育んでいく。
クマ問題が生み出すストレスを整理すると、以下のようになる。
- 人身被害への不安
- 農作物被害(畑や作物が荒らされる)
- 日常生活の緊張感(見回り、通学通勤、夜間対応など)

取得希望者が増える大きな理由2:生活圏での対応ニーズが高まっている
クマ被害の深刻化に伴い、「被害に困っている地域の力になりたい」という動機から免許取得を目指す人が増えている。これは素直に嬉しいことだと思う。ただ一つ、先輩として言いたいことがある。
狩猟は、強い使命感だけでは成立しない活動だ。銃や罠は、適切な知識と訓練なしに扱えば重大事故に直結する。現場でそういうヒヤリとした瞬間を何度か見てきたからこそ、断言できる。「助けたい」という気持ちと、「安全に動ける技術」は、セットでなければいけない。
「手伝いたいが、まず免許を取って正しい知識を身につけてから」と考える人が増えているのは、むしろ成熟した社会意識の表れだと思う。地域の猟友会や行政が主催する講習会への参加者も増加傾向にあり、安全教育の重要性に対する認識が社会全体で高まっているのは間違いない。
学びの観点で特に重要なのは次の3点だ。
- 安全教育を受ける(基本動作、危険予知、取り扱い手順)
- 現場の指導を受ける(経験者や地域の団体の管理体制)
- ルールを理解して行動する(曖昧な判断をしない)

2026年の試験で受験者が増える背景は?
狩猟免許試験の受験者数は年によって増減するが、2025年から2026年にかけては増加傾向が続くと見られている。背景にはいくつかの心理的・社会的な要因が重なっている。
ニュースや地域情報が「自分ごと」として届くようになった
以前は遠い地域の出来事として捉えられていたクマ被害も、SNSやローカルニュースを通じてリアルタイムに拡散されるようになった。若手ハンターたちに話を聞くと、「地元のグループラインで出没情報が流れてきて、他人事じゃなくなった」という声が多い。漠然とした関心が具体的な行動意欲に変わるスピードが、昔とは全然違う。
継続する困りごとが「行動のきっかけ」になっている
単発の被害ニュースではなく、毎年繰り返される農作物被害や生活への支障が積み重なることで、「何か自分にできることはないか」という気持ちが育まれる。特に農業従事者や地方在住者の間では、免許取得が現実的な選択肢として浮上しやすい環境が整いつつある。この「継続する困りごと」こそが、関心を行動に変える最大の動機だ。
「危険だからこそ学びたい」という意識の高まり
狩猟が危険を伴う活動であるという認識が広まるにつれ、「だからこそきちんと学びたい」と考える人が増えている。「猟師は一部の特殊な人がやるもの」というイメージが薄れ、「正しく学べば自分にも貢献できる」という開かれた認識に変わりつつある。危険性の認知が、むしろ学習意欲と安全意識の向上につながっているのは、受験者増の質的な変化として注目に値する。
狩猟免許取得の流れ(一般的なイメージ)
取得には、いくつかのステップを順番に踏んでいく必要がある。地域や免許の種類によって詳細は異なるが、全体像を把握しておくと準備がスムーズだ。
最初に行うのは受験資格の確認だ。年齢制限(原則18歳以上)や欠格事由(一定の犯罪歴、精神疾患など)が定められており、自分が受験できる状態かどうかを事前に確認しておく。
次に講習・事前学習の段階だ。都道府県や猟友会が主催する事前講習会への参加が推奨されており、法令・安全・猟具の取り扱いといった基礎知識を学ぶ。試験対策としてだけでなく、現場で事故を起こさないための知識を体系的に身につける場として、真剣に取り組んでほしい。
その後、各都道府県が年に数回実施する狩猟免許試験を受験する。「知識試験」「適性試験」「技能試験」の3つで構成されており、猟具の取り扱い実技が含まれる点が特徴だ。実技は体を動かして審査されるため、事前の練習は必須だ。
合格後は免許の交付申請や「狩猟者登録」など、いくつかの行政手続きが必要になる。銃を使用する場合は別途「所持許可」の取得が必要で、猟友会への加入も実質的には不可欠だ。こうした一連の準備を経て、ようやく実際の狩猟活動への第一歩が踏み出せる。
安全に学ぶための準備チェックリスト
狩猟は「知識があること」だけでは不十分だ。「現場で事故を起こさない習慣」が何より重要になる。取得前後を通じて、以下の点を意識して準備を進めてほしい。
学習面でのチェック
法令と禁止事項を、暗記ではなく「判断できる形」で理解する
試験合格だけなら暗記でも乗り越えられる。でも実際の現場では、「この状況はルール上どう判断すべきか」を瞬時に考える必要がある。「なぜその規定があるのか」という背景まで理解することで、想定外の状況にも対応できる判断力が身につく。
安全の原則(誤射・誤操作の防止)を徹底して身につける
銃や罠による事故の多くは、基本動作の省略や慢心から起きている。これは長年現場を見てきて、本当にそう思う。「銃口を人に向けない」「安全装置を常に確認する」「罠を設置した場所を記録する」——こういった基本原則は、繰り返し訓練して体に染み込ませることが不可欠だ。
天候・周囲の状況・見落としに備える「想定外の知識」を持つ
山の中では、地図通りに進めないことや予期せぬ天候の変化が頻繁に起こる。視界不良時の判断基準、周囲に人がいる状況での行動制限、罠を見失った場合の対処——「うまくいかないときに何をするか」を事前に考えておくことが重要だ。現場の経験が長い人ほど、この「最悪の場合」を常に頭の隅に置いている。

実務面でのチェック
装備の扱いは必ず講習で確認し、独学で進めない
動画や書籍だけで独学した知識には、致命的な抜け漏れが生じるリスクがある。講習や指導者のもとで正しい動作を確認し、フィードバックを受けながら習得するプロセスを省略してはいけない。これは安全確保の絶対条件だ。
経験者の指導を受けられる体制を先に整える
免許を取った後に「一人でやってみよう」とするのは、非常に危険だ。地域の猟友会への加入や、経験豊富な先輩ハンターとの同行猟は、単なる慣習ではなく安全管理の観点から極めて重要な仕組みだ。免許取得前の段階から、どのようなコミュニティや指導体制があるかを調べておくと、取得後の活動がスムーズに始められる。
緊急時の対応手順を事前に把握しておく
負傷者が出た場合の連絡先、誤射が起きた場合の報告義務、迷子になった場合の対処法——こういった緊急時の行動フローを頭に入れておく必要がある。「何かあったときどうするか」を想定しておくことは、ベテランハンターも常に意識し続けている習慣だ。

よくある誤解と注意点
誤解①:免許を取ればすぐに何でもできる
免許取得はあくまでスタート地点だ。実際の活動には、地域ごとのルール、捕獲対象の制限、時期・場所に関する規定、銃の所持許可など、数多くの条件が絡み合っている。「免許さえあれば」という思い込みで動くと、意図せず法令違反につながるリスクもある。取得後も継続的な学習と確認が欠かせない。
誤解②:被害が深刻なら多少の強行は許される
被害が深刻な地域ほど焦りが生じやすい。その気持ちは分かる。でも安全確保と法令遵守は、いかなる状況でも最優先だ。被害の大きさが違法行為や危険な行動を正当化する理由にはならない。むしろ焦りが判断力を鈍らせ、事故やトラブルを招く原因になる。冷静さを保つことが、最終的に地域への貢献につながる。
誤解③:銃や罠は経験でなんとかなる
「慣れれば大丈夫」という感覚は、狩猟においては危険な過信だ。基礎教育と反復練習、そして適切な指導体制のもとでの習熟が不可欠だ。経験を積むほど油断が生まれやすくなることも事実であり、ベテランでも基本動作の確認を怠らないのはそのためだ。
クマ対策で目指したい考え方:距離感と安全意識
クマと人との距離が縮まりつつある現代において、求められているのは「捕獲の即戦力」だけではない。むしろ重要なのは、安全意識を持った人材が地域に着実に増えていくことだ。
どれほど強い使命感を持っていても、現場での判断力と確かな技術が伴わなければ、捕獲は安全に成立しない。「困っている人を助けたい」という思いは狩猟活動の原動力として非常に大切だ。しかしその思いを現実の行動に変えるためには、「事故を起こさない」という安全への誓約と、「正しい手順で動く」という技術の裏付けが必要になる。
強い想い、安全への意識、確かな技術——この3つはどれか一つが欠けても機能しない。使命感だけでは危険を招き、技術だけでは動機が続かず、安全意識だけでは捕獲の成果が出ない。三つが揃って初めて、地域に長く貢献できるハンターの基盤ができる。
クマ被害の長期的な軽減のために本当に必要なのは、一時的な捕獲数の増加ではなく、安全で継続可能な活動ができる人材の裾野を広げることだ。狩猟免許の取得希望者が増えていること自体は、その意味で社会にとって大きな希望だ。大切なのは、その関心を確かな知識と技術に変えて、長く地域に根ざした活動につなげていくことだ。
まとめ:まずこれだけやれ
ここまで読んでくれたなら、今すぐ動いてほしい。「いつかやろう」は一番もったいない時間の使い方だ。
まずやることは3つだ。
① 自分の都道府県の試験日程を調べる
各都道府県のウェブサイト、または農林水産省・環境省のページから試験日程と事前講習の案内が確認できる。日程を把握しないことには何も始まらない。今日中に検索してほしい。
② 猟友会の窓口を探す
地域の猟友会は、免許取得の情報から実際の捕獲活動の場まで、入口として最も頼りになる存在だ。独学で何とかしようとするより、まず地元の猟友会に連絡を取ることをおすすめする。自分も最初の一歩はそこからだった。
③ 法令と安全の基礎を固める
試験対策としてではなく、現場で安全に動くための土台として、鳥獣保護管理法の基礎と安全管理の原則を先に理解しておくこと。これが後々の活動の質を大きく変える。
焦らず、でも着実に。その積み重ねが、地域と自然を守ることにつながっていく。周りのハンターたちを見ていても、入口は小さくても継続している人が結局一番力になっている。

管理者コメント
狩猟免許を取りたいと思っている人が増えているというのは、自分が始めた頃のことを思うと、隔世の感がある。あの頃は情報が少なく、猟友会の先輩に直接教わるしかなかった。それが今は、こうして記事で整理して伝えられる時代になった。周りのハンターたちからも最新の情報をたくさんもらいながら、自分自身もアップデートしている。被害に苦しむ地域を助けたい、自然と真剣に向き合いたい——そういう動機で来る人が増えることは、日本の狩猟文化にとっても間違いなくプラスだ。だからこそ「ちゃんと学ぶこと」は強調しておきたい。免許はゴールじゃなくスタートだ。一緒に、正しく、長く続けていこう。
