猟師は本当に稼げるのか――収入の実態と、稼ぐための現実的な戦略
初めに
狩猟に興味を持ち始めたとき、多くの人がまず気になるのが「実際どれくらい稼げるのか」という現実的な問いだと思う。
正直に言おう。「猟師として稼ぐ」のは、簡単ではない。
私が免許を取った当時から「猟師で飯を食う」という人はごく一部だった。今も基本的な構造は変わっていない。ただ、変化もある。ジビエ需要の高まり、体験ツアーの広がり、SNSでの情報発信——こうした新しい収益の窓口が増えたことで、以前よりも「工夫次第で稼げる余地」が広がっているのは事実だ。
周りのハンターたちと話していると、「稼ぎたい」という動機で免許を取る人が増えていると感じる。その気持ちは悪くないと思う。ただ、現場の実態を知らずに踏み込むと、思った以上に厳しい現実に直面する。この記事では、猟師のリアルな収入事情と収益化の考え方を、現場感覚を交えながら解説していく。
猟師の収入の目安は?
まず全体像として、猟師の収入は活動スタイルによって大きく3段階に分かれる。日本では専業猟師は少数派で、会社員や自営業と並行して狩猟を行う人が大半だ。「平均収入」よりも「スタイル別の目安」で考えた方が実態に近い。地域差も非常に大きく、山間部か都市近郊かによって駆除依頼の量や報奨金の条件は変わる。
副業レベル(年収0〜50万円程度)
実のところ、猟師の多くがこの層に当てはまる。狩猟はあくまで趣味や副業として行われており、「肉の確保」や「自然の中での体験」に価値を見出しているケースがほとんどだ。
私の周りにも、「年間の報奨金が10〜20万円程度で、あとは自家消費用の肉」というスタイルで続けている人が何人もいる。それが悪いわけでは全くない。最初はそこからでいい。ただ「稼ぎたい」という目的で始めると、最初の数年間のギャップに驚くことになる。
半専業レベル(年収50万〜200万円)
駆除活動やジビエ販売を取り入れることで、副収入として成立し始める段階だ。ある程度の時間と労力をかける必要があり、「稼ぐ意識」が明確になってくる。ここに至るまでには、捕獲技術の向上だけでなく、販路の開拓や地域との関係構築が欠かせない。
専業レベル(年収200万〜500万円以上)
ごく一部だが、狩猟で生計を立てている人は存在する。ただし、単純な狩猟だけに頼るのではなく、後述するような複数の収入源を組み合わせているのが前提だ。「専業猟師」と名乗っている人でも、実態はジビエ事業者・体験ガイド・YouTuberとしての顔を持っていることが多い。
猟師の主な収入源
猟師の収入は一つではなく、複数を組み合わせることで成り立つ。現在の日本では「自治体からの報奨金」と「民間での販売収益」という2つの軸があるが、報奨金だけでは生活が成り立たないため、多くの猟師が自ら販路を開拓しているのが実情だ。
「どれが一番稼げるのか」とよく聞かれる。正直、これは人によって全然違う。向き不向きも環境も違うからだ。ただ共通して言えるのは、一つに頼るより組み合わせた方が安定する、ということだ。
駆除報奨金(自治体からの支払い)
自治体が有害鳥獣の駆除を依頼し、捕獲1頭ごとに報奨金を支払う仕組みだ。1頭あたりの単価は数千円〜2万円程度が相場で、地域によって大きく異なる。仮に月20頭捕獲しても、月収は数万円〜十数万円レベルになる計算だ。専業でフル稼働しても年収200万円に届かないケースは珍しくない。
一つ実例を挙げると、滋賀県のある地域では猟師32人が5年間で合計約1億7900万円の報奨金を受け取ったというデータがある。単純計算で1人あたり年間約100万円前後になるが、これはかなり活発に活動した場合の数字だ。
捕獲できなければ収入はゼロという完全成果報酬の世界だ。猟友会を通じて分配されるケースも多く、単価も地域によってバラバラ。「安定収入」とは言いがたい。ただ、地域から「必要とされている」という実感は確かにある。そこに価値を見出している猟師は多い。
ジビエ肉の販売(鹿・猪など)
鹿や猪の肉を飲食店や個人に販売する収益だ。1頭あたり適切に解体・処理できれば数万円規模になることもあり、収益の柱になりえる。うまく軌道に乗れば年収50万〜300万円以上も現実的な数字だ。
ただし、ここには高いハードルがある。衛生基準を満たした処理施設が必要で、個人での参入には設備投資がかかる。それ以上に大きいのは「技術の差」だ。解体の精度と血抜きのタイミングが肉の品質を決め、品質が価格を決める。雑に扱った肉は臭くて売れない。これはこのサイトの解体記事でも繰り返し書いてきたことだ。
京都のある猟師グループは、半年間で約200頭をジビエとして商品化することに成功し、飲食店への安定した卸しルートを構築した事例がある。ポイントは「処理の品質を一定に保つ仕組み」を作ったことだ。個人の技術に依存するのではなく、チームで品質管理する体制を整えたことが、事業として成立した理由だと聞いている。
皮や角などの副産物の販売
鹿の革や角は、工芸品・アクセサリー・インテリア素材として活用できる。単体で大きな収益にはなりにくく、多くて年間数十万円程度だが、廃棄していたものから収益が生まれるという意味では積み重ねれば確実にプラスになる。
メルカリなどのフリマアプリを使って販売しているハンターも増えてきた。加工スキルがあると単価が上がる。ナイフのグリップに鹿角を使ったり、革を財布に仕立てたりと、こだわって差別化している人もいる。「全部捨てるのはもったいない」という感覚から始まった副業が、気づいたら年間30〜40万円になっていた、という話も周りで聞く。
狩猟体験ツアーやガイド業
1回数千円〜数万円の体験料金を受け取る形のビジネスだ。回数を積み上げれば年収100万〜500万円以上も視野に入る。単価を上げやすく、収益の安定化につながりやすい分野だ。
ただしこれは「狩猟」というより「サービス業」に近い。集客が最大の壁で、参加者の安全管理・法律対応・地域との調整など、猟師としての技術とは別のスキルが求められる。ジビエ処理施設と体験プログラムを組み合わせて安定した来訪者数を確保している事例や、「解体体験」をメインにしたワークショップで固定ファンを作っている猟師グループも出てきている。
正直なところ、向き不向きがはっきり出る分野だ。人前で話すのが苦にならない人、段取りが得意な人には合っている。私のような「山の中でじっと動物の気配を読む」タイプには、あまり向いていないと思っている。
YouTube・ブログなどの情報発信
広告収入だけでなく、集客・ブランド化・販売への導線として機能する。うまく当たれば年収300万円以上も夢ではないが、軌道に乗るまでの半年〜1年は収入がほぼゼロというのが現実だ。継続力とコンテンツを作る能力が求められ、狩猟スキルとは全く別の能力が必要になる。
最近のハンターの中には、狩猟の動画をYouTubeで発信しながら自分のジビエブランドへの集客につなげ、登録者数が増えるにつれて問い合わせが来るようになった、というケースもある。「発信が先で、収益は後からついてきた」という流れだ。すぐ稼ごうとして飛びつくより、まず面白いコンテンツを作り続けることが出発点になる。
なぜ「狩るだけ」ではそこまで稼げないのか
「捕れば稼げる」と思っていた頃の自分に言い聞かせたいことがある。山はそんなに都合よく動いてくれない。
猟師の収入が安定しにくい根本的な理由は、自然環境に依存しているという点だ。捕獲数は日によって大きく変動し、天候・季節・気温によって動物の行動も変わる。「今日は1頭も見なかった」という日が続くことは、何十年やっていても珍しくない。
加えて、狩猟期間が法律で制限されている。年間を通じて自由に稼げる仕事ではないのだ。報奨金の単価が低いため数をこなさなければ収入は伸びず、移動費・装備費・燃料代というコストが積み重なるため、見た目以上に利益が残りにくい構造になっている。
「必要とされているのに稼ぎにくい」という少し特殊な構造が、この仕事には確かにある。担い手不足が問題視されながら、収入面のハードルが新規参入の壁になっている現実は、何とかしたいと思い続けている問題だ。
稼げる猟師の特徴
周りで収入を伸ばしている猟師を見ていると、共通点がある。技術の高さはもちろんだが、それだけでは不十分だ。
「どうすれば収益になるか」を常に考えていることが第一の特徴だ。「獲れた」で終わらず、「これをどう売るか」「次の仕事につなげるか」という視点を持っている。
●地域との関係性・信頼も重要だ。駆除依頼や仕事の機会は人づてに広がることが多い。「あの人に頼めば大丈夫」という信頼が積み重なると、声がかかる回数が増える。私が長年かけて実感してきたことだが、山の外での振る舞いが、山の中での仕事に直結する。
●山に入る頻度が高いこと。当たり前のように聞こえるが、経験の密度が違う。捕獲率の向上だけでなく、フィールドの変化を読む力や現場判断の精度が上がる。「稼げるハンター」のほとんどは、ただ単純に山に入っている時間が長い。
●複数の収入源を持っていること。一つが不調でも他でカバーできる体制が、精神的にも経済的にも安定につながる。そして捕獲から解体・販売まで自分でやること。中間コストを削ぎ落として利益を最大化する。これは一朝一夕では身につかないが、着実に積み上げていけるスキルだ。
初心者が取るべき現実的な戦略
「早く稼ぎたい」という気持ちはわかる。でも最初の1〜2年は、収益よりも「経験と環境づくり」を優先した方が結果的に近道になる。
最初にやるべきことは、地域の猟友会や先輩猟師との関係を作ることだ。仕事の機会はほとんど人づてで広がる。いきなり単独で動いても、情報も機会も入ってこない。私自身、この仕事で積み重ねてきたものの多くは、先輩から教わったことと、一緒に山に入った経験から来ている。
次に、駆除活動に参加して現場を知ること。理想と現実のギャップを肌で感じることが大切だ。「思ったより捕れない」「思ったより金にならない」という現実を早めに知った方が、次の戦略を立てやすい。
その上で、どのスタイルを目指すかを早めに考えておくこと。趣味・副業・本格収益化、どれを目指すかによって必要な投資と行動が全く変わる。方向性が定まれば、無駄な遠回りを避けられる。
そして小さく試しながら収益化の方法を探っていくこと。「まずジビエを1頭分売ってみる」「SNSで発信してみる」——完璧な準備を待つより、動きながら学ぶ方がこの分野では圧倒的に速い。
まとめ――「稼げるか」より「どう稼ぐか」を考えてほしい
猟師の収入に「決まった答え」はない。やり方次第で年収数十万にも数百万にもなりえる。
ただ、共通して言えることがある。「狩るだけ」で稼ごうとすれば、ほぼ確実に行き詰まる。 複数の収入源を組み合わせ、地域とのつながりを作り、自分なりの形を見つけた人だけが、長く続けていける。
近年はジビエ市場の拡大や体験ビジネスの広がりにより、収益化の可能性は以前より確実に広がっている。「稼げない仕事」と決めつけるのではなく、「どうすれば稼げるか」を考え続けることが出発点だ。
この記事を読んでくれた方に、一つだけ行動してほしいことがある。今の自分がどのスタイルを目指したいのか、紙に書き出してみることだ。「趣味として楽しみたい」「副収入にしたい」「本格的に事業にしたい」——方向性が決まると、次に何をすべきかが自然と見えてくる。
焦らず、でも止まらずに。それがこの分野で長く続けるための唯一のコツだと、何年もかけて実感している。

管理者より
狩猟で稼ぐのは簡単ではない。でも裏を返せば、「やる人が少ない分、やり続けた人に伸びしろがある分野」でもある。
収益を上げている人は、例外なく試行錯誤を重ねており、最初から完璧を目指してきたわけではない。失敗して、修正して、また動く——その繰り返しが結果につながっている。
私がすべてのハンターたちに伝えたいのが、「収入だけ見るな」ということだ。
経験・人脈・現場判断の力、こうした目に見えにくい資産が積み上がっていくのが狩猟という活動の本質だと思っている。それが長い目で見れば、収益にもつながっていく。狩猟で稼ぐのは簡単ではありませんが、裏を返せば「やる人が少ない分、伸びしろがある分野」でもあります。実際に収益を上げている人は、例外なく試行錯誤を重ねており、最初から完璧を目指してきたわけではありません。収入だけでなく、経験・人脈・スキルという目に見えにくい価値も着実に積み上がっていくのが狩猟の醍醐味です。短期的な結果を求めすぎず、長期的な視点で腰を据えて取り組むことが、結果的に収益にもつながっていきます。焦らず、でも止まらずに。
参考情報・出典一覧
本記事で参考にした主な情報源は以下の通りです。
- 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害の現状」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r4/r4_h/trend/part1/chap4/c4_6_00.html - 農林水産省「ジビエ利用の現状」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/chojyu/r6/index.html - 農林水産省 食料・農業・農村政策「ジビエ活用事例」
https://nippon-food-shift.maff.go.jp/foodshift/case06/ - 一般社団法人 日本ジビエ振興協会
https://www.gibier.or.jp/gibier/local/ - lotsful(猟師の収入に関する解説記事)
https://lotsful.jp/biz/articles/2708 - 朝日新聞デジタル(ジビエ・狩猟関連の記事)
https://www.asahi.com/articles/ASSD52PL6SD5PLZB001M.html - 日本農業新聞(狩猟・地域ビジネス関連)
https://www.agrinews.co.jp/society/index/305388 - マネーフォワード クラウド(狩猟の収益構造解説)
https://biz.moneyforward.com/establish/basic/83536/
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