「大物だけが狩猟じゃない」カモ・ヤマドリ・アナグマ・ノウサギ——知られざる狩猟鳥獣の世界
シカとイノシシの話ばかりしていると、狩猟の半分を見落とす。水辺を舞台にしたカモ猟の戦略、山深いヤマドリとの知恵比べ、希少なジビエとして注目されるアナグマ、雪上を読むノウサギ猟——それぞれに全然違う面白さがある。
管理者より
自分が免許を取った当初は、正直「シカとイノシシが獲れれば十分」という感覚だった。でも、経験を積み、周りのハンターと話す機会が増えるにつれ、まったく違う世界があることに気づいた。カモ猟をやっている人の「飛んできた瞬間の興奮」という話、ヤマドリ猟に惚れ込んで数十年続けているベテランの「あの独特の風格には独特の難しさがある」という言葉、アナグマを初めて食べて「これがジビエの最高峰か」と思ったという話——これらは大物猟とはまったく異なる狩猟の楽しさだ。今回はシカ・イノシシ・クマ以外の狩猟鳥獣について、現場感覚を交えながら書いた。自分自身が全部やり込んでいるわけではないが、仲間から仕入れた情報と自分の経験を合わせて、できるだけ正直に書いている。
初めに
日本の狩猟鳥獣は鳥類26種・獣類20種、合計46種(※時期により変動あり)が定められている。にもかかわらず、一般的な狩猟記事ではシカとイノシシが主役で、残りの鳥獣はほとんど語られない。実際には水辺のカモ、山中のヤマドリ・キジ、里山のノウサギやアナグマ、漁業被害で問題になっているカワウまで、それぞれに異なる生態・猟法・食材としての魅力がある。この記事では、そういった「もう一つの狩猟鳥獣」に光を当てる。入門者から「別のフィールドを開拓したい」という経験者まで、何か一つでも新しい視点が見つかれば嬉しい。
Pt1:まず全体像を把握する——鳥猟・小型獣猟の現在地
大日本猟友会のデータによると、かつての日本ではスズメやカモ類、コジュケイ、キジ、ヤマドリなどの鳥類の捕獲が主流だった時代がある。それが現代では、シカとイノシシの大物猟が捕獲数の大半を占めるようになった。これは農業被害対策の需要が高まったためでもあるが、鳥猟や小型獣猟の人口が減ったという現実でもある。
では、鳥猟や小型獣猟は衰退しているだけなのか。必ずしもそうではない。むしろ、大物猟一辺倒になった今だからこそ、「別の面白さ」を求めて鳥猟に転向したり、小型獣にチャレンジするハンターも出てきている。猟法が違えば必要な技術も道具も変わり、同じ「狩猟」でも体験がまったく異なる。それが魅力でもある。
| 種別 | 代表的な対象 | 主な猟法 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 水鳥猟 鳥類 | マガモ、カルガモ、コガモ等カモ類、カワウ | 散弾銃による奇襲・エアライフル狙撃・鳥屋撃ち | 水辺フィールドが舞台。戦略と動体視力の競技性 |
| 山鳥猟 鳥類 | ヤマドリ、キジ、コジュケイ | 猟犬を使った渉猟、忍び猟 | 深山が舞台。犬使いの技術と地形読みが問われる |
| 小型獣猟 獣類 | ノウサギ、アナグマ、タヌキ、テン | くくり罠・箱罠・犬追い・忍び猟 | 里山〜山地が舞台。フィールドサインの読みが重要 |
| 外来種・問題種 獣類 | アライグマ、ハクビシン、ヌートリア | 箱罠・くくり罠 | 農業・生態系被害対策。有害鳥獣捕獲との兼ね合いも多い |
Pt2:カモ猟——水辺の戦略ゲーム、日本で最も人気の高い鳥猟
カモ猟は、銃猟をやるハンターの中でも人気の高い分野だ。冬になると河川や湖沼に飛来するマガモ・カルガモ・コガモなどを対象にした猟で、水辺という特殊なフィールドが舞台になる。散弾銃を使う場合とエアライフルを使う場合では、まったく戦略が異なる点が面白い。
散弾銃の場合は「奇襲」が基本戦術だ。カモの警戒レベルを一気に最高まで引き上げ、飛んだ瞬間を狙う。一方、エアライフルの場合は「狙撃」が基本で、カモが泳いで距離を取ろうとするレベル1〜2の間を長くキープしながら、確実に射程に捉える機会を待つ。こういった戦術の差が、カモ猟の奥深さを生んでいる。
近年の話題
カワウによる漁業被害が全国的な問題となっている。2023年には京都府福知山市と市内漁業協同組合が、直径約1メートルの大型ドローンを飛ばし、猟犬の鳴き声や花火で群れを威嚇する実証実験を開始した。カワウは2007年に狩猟鳥に指定されており、空気銃による捕獲は群れを最小限しか拡散させず効率がよいとされているが、食材としての活用が難しい点が課題として残っている(TSURINEWS、2023年)。
カモ猟で見落とされがちなポイントの一つが、「撃ったカモの回収」だ。水面に落ちたカモを回収するには、レトリーバーなどの回収犬があれば理想的だが、いない場合は長い竹竿や専用の回収ネットを用意する必要がある。「獲れたのに水面に浮いたまま」という状況は、装備を準備していないカモ猟初心者がよく経験する失敗だ。
現場から
カモ猟を経験したことのある仲間のハンターが「初めて飛んできたカモを目の前で散弾でパタリと落としたとき、体が震えた」と話してくれた。大物猟とはまったく別の種類の興奮だという。自分もいつかちゃんとやってみたいと思っているが、水辺フィールドの確保と回収の準備が意外と大変で、なかなか踏み出せていない——正直なところだ。
✔ カモ猟のポイント
カモ類はシベリア等から越冬のために飛来する冬鳥が中心で、猟期(11月〜2月)と生息サイクルが重なる。1日あたりの捕獲制限はカモ類合計で5羽。猟場となる河川・湖沼は地域の漁業協同組合や河川管理者との関係があるため、事前確認が必須だ。鳥屋撃ち(デコイを使って身を潜めカモを呼び寄せる方法)は、北米式のスタイルで日本でも試みられているが、本場と比べるとまだ普及途上の段階にある。
Pt3:ヤマドリ・キジ猟——「山の宝石」を追う、難度最高の鳥猟
ヤマドリは、日本固有の大型キジ科の鳥だ。オスは尾羽が長く美しく、山深い沢地に生息する。古来から日本人に親しまれてきた鳥で、「山の宝石」とも呼ばれる。その肉は良くも悪くも「地鶏」に似た風味で、ジビエとしての評価も高い。しかし、その捕獲難易度は鳥猟の中でも群を抜いて高いとされている。
ヤマドリ猟の基本は、猟犬(セッターやポインターなど)を使った渉猟だ。犬がヤマドリを嗅ぎつけてポイントし、ハンターが近づいて飛ばして撃つ。深い沢を上り下りしながら犬と連携する体力・技術・地形読みが一体となった、高度な猟法だ。かつて鳥猟の難易度については「カモ→キジ→ヤマドリ」という順に難しくなると言われていたが、実際は地域や個人によっても異なるようだ。確かなのは、ヤマドリを安定して獲れるようになれば、鳥猟においては相当な上級者だということだ。
一方、キジは平地や里山周辺に生息する国鳥で、ヤマドリに比べると比較的アクセスしやすい猟場で出会いやすい。ただし、キジのメスは現在捕獲が禁止されており(令和9年9月まで、放鳥猟区以外)、識別ミスは厳禁だ。ヤマドリについても同様にメスの捕獲は禁止されている。野外での雌雄識別は、慣れないハンターには意外と難しい。
⚠ 識別の重要性
キジのメス・ヤマドリのメスの捕獲禁止は厳守事項だ。飛び立った瞬間に雌雄を正確に識別して判断するには、図鑑や動画での事前学習と、先輩ハンターとの現場同行が不可欠だ。「たぶんオスだろう」という判断で撃つことは絶対にしてはいけない。
Pt4:アナグマ・ノウサギ——「希少ジビエ」と「雪上の足跡読み」の世界
アナグマ——在来ジビエの最高峰
ニホンアナグマは、イタチ科に属する中型の哺乳類だ。タヌキとよく混同されるが(「同じ穴のムジナ」ということわざの由来でもある)、系統的には全く異なる動物で、味も別物だ。アナグマの肉は、在来種のジビエの中でも「最高級」と評されることがある。脂身が多く濃厚なコクがあり、赤身は黒っぽい。フランスやイギリスでも伝統的に食されてきた食材だ。
ただし、アナグマは生息数が減少傾向にあることもあり、捕獲数は決して多くない。罠にかかることはあるが、狙って獲るとなると相応の知識と準備が必要だ。秋から冬にかけて脂が乗った個体の肉は別格で、煮込み料理や鍋に向いている。「アナグマ肉を食べたことがある」というだけで、ジビエ通の中でも一目置かれる存在になれる。そのくらい希少で、知る人ぞ知る食材だ。
私の経験
猟友会の先輩から「アナグマ獲れたから食べてみるか」と声をかけてもらったことがある。そのときの煮込みの味は、今でもはっきり覚えている。豚と鶏の間みたいな、でもそのどちらとも違う独特の深みのある旨味。「これは別物だ」と思った。それ以来、アナグマを獲った話を聞くと放っておけなくなってしまった。
ノウサギ——雪上の足跡を読む、冬猟の純粋な知恵比べ
ノウサギは全国に分布する在来種で、猟期(11月下旬〜2月)と雪の季節が重なる。雪が積もると足跡が残るため、猟場の見通しが良くなる冬場がもっとも獲りやすい時期だ。特に東北・北海道ではマタギ文化の中でノウサギ猟が長く受け継がれてきた。
ノウサギはくくり罠・散弾銃のどちらでも捕獲される。体重3kg程度の小型動物だが、足が速く地形を上手く使って逃げるため、追いかけるだけでは獲れない。雪上の足跡から「今どこにいるか」「どちらに逃げようとしているか」を読む能力が問われる。ある意味、フィールドサイン読みの純粋な知恵比べだ。
ノウサギの肉は白身に近い淡白な味で、フランス料理では「ラパン」として高級食材に使われる。ジビエとしても価値が高く、取り扱い量の少ない希少品だ。ただし、ノウサギは「野兎病(Tularemia)」という人畜共通感染症のリスクがある点に注意が必要だ。解体時には必ずゴム手袋を着用し、生食は絶対に避けること。
⚠ ノウサギ取り扱いの注意
ノウサギは野兎病(フランシセラ・ツラレンシス菌)の保菌個体が存在する可能性がある。解体時の素手での接触・粘膜への血液飛散・生肉の喫食は感染リスクがある。必ず防護手袋を使用し、十分に加熱調理すること。これはノウサギ猟を始める前に必ず頭に入れておくべき知識だ。
Pt5:「多様な獲物を知ること」が、ハンターとしての視野を広げる
シカ・イノシシの大物猟をメインにしていると、どうしても視野が狭くなりがちだ。それは実際に経験してみて感じることでもある。罠の確認・見回り・止め刺し・搬出というサイクルを繰り返していると、それ以外のことを考える余裕がなくなってくる。でも、少し立ち止まって「他に何があるか」を知ることで、狩猟の面白さが何倍にも広がる。
たとえば、カモ猟を経験したことがあると、水辺のフィールドサインや鳥の行動パターンへの感度が上がる。それが大物猟の現場でも活きることがある。ヤマドリ猟に詳しいハンターは、深山の地形を読む能力が驚くほど高い。それぞれの猟がそれぞれの技術を磨いていて、そしてそれらは互いに影響し合っている。
もう一つ、自分が仲間から何度も聞く話がある。「最初は大物ばかり追っていたが、ある年にヤマドリを1羽獲ったら世界が変わった」という話だ。難しい獲物との向き合い方の違い、フィールドの読み方の違い——そういったものが、ベテランのハンターを長く現役で活躍させている理由の一つだと思っている。
✔ 多様な狩猟鳥獣の主要データまとめ
カモ類(1日5羽・季節は11〜2月)は銃猟の入門として取り組みやすい水鳥猟。ヤマドリ・キジ(1日合計2羽・メス捕獲禁止)は雌雄識別と犬使いが問われる難易度の高い鳥猟。ノウサギ(制限なし・ただし野兎病注意)はマタギ文化の中核だった冬猟で、雪上のフィールドサイン読みが面白さの核心。アナグマ(制限なし)は在来ジビエ最高峰と評される希少な食材。いずれも都道府県によって捕獲が禁止・制限されている場合があるため、必ず事前に確認すること。
何か一つでも気になる獲物があれば、まず猟友会の先輩や地域の鳥猟・小型獣猟の経験者に話を聞いてみることをすすめる。大物猟とは異なるフィールドと知識が必要になるが、入り口さえ見つけられれば、狩猟の奥行きが一気に広がる。これは自分自身がまだ探索中でもあるテーマだ。
まとめ——「次の猟」のフィールドは、もっと広い
シカとイノシシ以外の狩猟鳥獣には、それぞれ全く異なる面白さと難しさがある。カモ猟は水辺の戦略ゲームで、散弾銃とエアライフルで戦術がまるで異なる。ヤマドリ・キジ猟は日本固有の山の鳥との知恵比べで、犬との連携と深山の地形読みが問われる。ノウサギは雪上のフィールドサインを読む冬猟の醍醐味で、アナグマは希少な在来ジビエの最高峰だ。
今すぐできることは、猟友会の仲間の中に鳥猟や小型獣猟の経験者がいないかを確認してみることだ。そういう人は知識の宝庫で、話を聞くだけで現場感が一気に変わる。もし自分の周りにいなければ、地域の猟友会や狩猟フォーラムに参加してみるといい。「大物だけが狩猟じゃない」——その言葉を、ぜひ体感してほしい。
出典・参考資料
- 環境省自然環境局野生生物課「狩猟制度の概要」(鳥獣保護管理法に基づく狩猟鳥獣一覧)
- 大日本猟友会「狩猟関係統計/狩猟鳥獣」
- 岩手県猟友会「狩猟できる鳥獣とは」
- 福井県猟友会「狩猟鳥獣一覧」
- TSURINEWS「漁業被害もたらす『カワウ』をドローンで撃退 食べて駆除するのが難しいワケとは?」(2023年6月)
- 新狩猟世界「銃猟の大人気カテゴリー『カモ撃ち』ってどんな猟?散弾銃・エアライフル、両者の魅力を解説!」
- 新狩猟世界「カモ捕獲作戦!待ち伏せする?狙撃する?」
- 新狩猟世界「『ヤマドリ』は食材を復活させる霊鳥」
- 環境省「キジ・ヤマドリ出合数調査等に関するヒアリング調査結果」
- Wikipedia「ニホンアナグマ」
- 日本食財.com「野ウサギ」(2021年)
- ジビエマルシェ Wild Life「ノウサギ」
- マイナビ農業「狩猟できる動物は48種に決められている!前編・獣類20種」(2023年)

