クマ・シカ・イノシシだけじゃない:いま急増する「見落とされがちな」野生鳥獣被害の実態
農作物被害総額188億円——その陰には、名前を聞いてもピンとこない動物たちが潜んでいる。
ハンターとして関わるかもしれない、知られざる話。
管理者より
狩猟を続けていると、地域の農家さんや自治体の担当者から「実はこっちの被害も深刻なんだよ」という話を聞く機会が増えてきた。話題になるのはクマ・シカ・イノシシばかりだが、実際の農作物被害の内訳を見ると、それ以外の動物が占める割合が無視できない水準にある。カラス、ヒヨドリ、ハクビシン、アライグマ——どれも「害獣」というより「身近な野生動物」というイメージが先行していて、その被害の深刻さが軽く見られがちだ。この記事では、現場での実感と最新データを組み合わせて、あまり語られない被害の実態を整理したいと思う。
初めに
農林水産省のデータによると、令和6年度(2024年度)の野生鳥獣による全国の農作物被害額は約188億円にのぼる。シカとイノシシが被害の大部分を占めるのは事実だが、その陰には目立たないながらも深刻な被害をもたらしている動物たちがいる。カラスによる被害は年間十数億円、ヒヨドリは2025年に異例の全国調査が実施されるほどの急増、そしてハクビシンやアライグマによる中型獣被害は都市近郊まで広がっている。ハンターとして活動していれば、有害捕獲の依頼やわな猟の現場でこれらと関わる機会も少なくない。知っているのと知らないのとでは、現場での対応が変わってくる。
まず「数字」を見てほしい——被害の全体像
農林水産省が2025年に公表した令和6年度データでは、全国の農作物被害額はシカが79億円(前年比+9億円)、イノシシが45億円(同+8億円)と飛び抜けているが、その下には多様な動物が並ぶ。ヒヨドリは前年比+4.7億円と急増し8億円規模となり、カラスは例年通り10億円超を維持している。アライグマは着実に被害を増やしており、タヌキ・ハクビシン・アナグマも地域によっては深刻な問題を引き起こしている。
| 動物 | 分類 | 主な被害内容 | 傾向(近年) |
|---|---|---|---|
| カラス | 鳥類(狩猟鳥) | 果実・野菜・穀物・ゴミ荒らし | 年間10億円超で高止まり |
| ヒヨドリ | 鳥類(狩猟鳥) | 葉物野菜・柑橘類の食害 | 2025年に急増・農水省が異例の全国調査 |
| ハクビシン | 中型獣(狩猟獣) | 果物・野菜・家屋侵入・糞尿 | 都市近郊まで拡大中 |
| アライグマ | 中型獣(特定外来生物) | 果実・水産物・家屋侵入・生態系破壊 | 全国的に生息域拡大・年々増加 |
| タヌキ | 中型獣(狩猟獣) | 果実・野菜・稲 | 首都圏・近畿・九州で分布拡大 |
| アナグマ | 中型獣(狩猟獣) | 根菜・土掘り荒らし・堤防破壊 | 過小評価されがちだが農業現場では深刻 |
| サル | 中型獣(有害捕獲対象) | 果樹・シイタケ・タケノコ | 年間8億円規模。学習能力が高く対策困難 |
| ヌートリア | 中型獣(特定外来生物) | 稲・野菜・水辺作物・堤防破壊 | 中部・近畿・中国地方で急増 |
カラス狩猟鳥 / 被害額10億円超
カラスによる農業被害は毎年10億円超を記録しており、鳥類による被害の中では断トツの1位だ。ハシブトガラスとハシボソガラスの2種が主な加害者で、果実全般(ブドウ・ナシ・リンゴ・ミカン)から穀物、野菜類まで手当たり次第に荒らす。しかも学習能力が極めて高く、一度効果のある対策をしても、時間が経つと回避してくる。防鳥ネットの隙間を見つけ、かかしを「慣れ」で無効化し、そして群れで来る——農家からすれば本当に頭が痛い相手だ。
狩猟鳥の一種であるため、猟期中は銃猟や網猟で捕獲できる。ただし鳥類全般に言えることだが、「撃ちやすい」動物ではなく、射撃精度と捕獲後の処理方法のセットが求められる。有害捕獲としての依頼も多く、農村ハンターとして活動していれば、カラスへの対処を求められる場面は必ずある。
私の視点
カラスの捕獲は「数を減らす」だけでは根本的解決にならないことが多い。縄張り意識が強い動物なので、適切な密度管理と追い払い対策の組み合わせが現実的だ。ハンターとしては、依頼を受ける前に「その地域でカラス猟が有効な季節・場所かどうか」を確認しておくと、空振りを防げる。
ヒヨドリ狩猟鳥 / 2025年急増・農水省が異例の全国調査
「ヒヨドリが害鳥?」と思う人は多いはずだ。確かに見た目はかわいらしい野鳥だが、農家にとっては今や深刻な脅威になっている。農林水産省の令和6年度データでは、ヒヨドリの被害額は前年比+4.7億円と急増し8億円規模に達した。さらに2025年1月、農水省は「ヒヨドリによる被害がこれまでにないほど大きい」という報告が全国から相次いでいることを受け、異例のヒヨドリ限定の全国実態調査を実施している。
なぜこんなに増えているのか。専門家が指摘するのは「夏の猛暑による山の木の実の不作」だ。自然の食料源が減ったヒヨドリが群れで農作物に押し寄せる——大分県では500羽が押し寄せ、1農家の被害額が約300万円に達した事例も報告されている。被害作物はブロッコリー・キャベツ・小松菜などの葉物野菜や柑橘類が中心だ。
📋 実際のニュース(2025年大分県・奄美大島)
2025年、大分県国東市の農家ではヒヨドリ約500羽が連日押し寄せ、約1.6ヘクタールの畑で約300万円の被害が発生した。奄美大島では13年ぶりの大規模食害が報告され、タンカン・小松菜・大根が大量に食い荒らされた。農水省は同年4月、ヒヨドリに特化した全国調査を開始。農家の被害が「例年に比べてこれまでにないほど大きい」と報告されたことが直接の契機となった(出典:日本農業新聞・TOSオンライン、2025年)。
ヒヨドリは狩猟鳥(第2種猟銃免許・銃猟または網猟で捕獲可能)だが、鳥獣保護法の制約もあり、農家が独自に駆除することは基本的にできない。防鳥ネットの設置が最も有効な対策とされているが、コストや設置の手間が課題だ。ハンターへの有害捕獲依頼が増えている地域もある。
ハクビシン・アライグマ中型獣 / 都市部まで拡大
この2種は一括りにされることが多いが、性質はかなり異なる。ハクビシンは日本全国の都市近郊を含む広域に分布し、夜行性で屋根裏や天井裏への侵入を得意とする。果物・野菜だけでなく家屋に住み着き、糞尿による悪臭・建物の腐食・騒音といった被害を引き起こす。東京都の相談件数は2022年度に年間3,500件を超えており、もはや「地方の問題」ではない。
アライグマは北米原産の特定外来生物で、ペットとして持ち込まれたものが野生化したものだ。可愛らしい見た目とは裏腹に凶暴な一面があり、人をかんで傷つけることもある。繁殖力が高く生息域が急速に拡大しており、農作物・水産物・畜産への被害に加え、生態系への影響も深刻だ。アライグマによる農作物被害額は令和4年度に全国で5億円を超え、増加傾向が続いている。
⚠ ハンターとして関わる前に注意
アライグマは「特定外来生物」なので、捕獲・防除には外来生物法に基づく防除実施計画が必要で、個人が勝手に駆除できない。有害捕獲の依頼を受ける際は、自治体の許可体制を必ず事前確認すること。また、アライグマはアライグマ回虫・狂犬病ウイルス等の寄生虫・感染症のリスクがあるため、捕獲・処理時の感染対策は必須だ。
📝 私の経験
わな猟の現場でアライグマが「錯誤捕獲」(意図せず目的外の動物が罠にかかること)されることがある。イノシシを狙って仕掛けた箱罠に朝行ったらアライグマが入っていた——そういう話は珍しくない。その場合の対処(すみやかな報告・処分か放獣か)は、事前に自治体と確認しておかないと、その場で判断できず困る。「錯誤捕獲が起きたらどうするか」は、わな猟師として必ず想定しておくべきことだ。
タヌキ・アナグマ中型獣 / 「地味だが確実に増えている」
タヌキもアナグマも、正直なところ「あまり話題にならない害獣」の代表だ。しかし環境省の分布調査では、近畿・九州・首都圏周辺でタヌキの分布拡大傾向が確認されており、捕獲数も増加している。タヌキは果実・野菜・稲を食べるほか、ごみ置き場を荒らす。見た目の可愛らしさも相まって、「被害を受けても言いにくい」という農家の声もある。
アナグマは「同じ穴のムジナ」ということわざでも知られているように、タヌキとよく混同されるが、まったく別の動物だ。イタチ科のアナグマは強靭な前足で穴を掘ることに特化しており、根菜を掘り返したり、農道の土手や農業用水路の堤防に穴を開けて構造を弱体化させたりといった被害をもたらす。農道に穴が開いてトラクターが傾くといった事故も報告されている。地味ながら農業インフラへのダメージという意味では深刻な害獣だ。
ヌートリア・サル特定外来生物 / 農業被害8億円規模
ヌートリアは南米原産の大型齧歯類(体長50〜70cm)で、特定外来生物に指定されている。戦時中に毛皮用として持ち込まれたものが野生化し、現在は中部・近畿・中国地方を中心に急増している。稲・野菜・蓮根などの水辺農作物を根元から食い尽くし、さらに農業用の堤防や水路の土手に巣穴を掘ることで、インフラへのダメージをもたらす。愛知県一宮市の2024年度データでは、ハクビシンとともに最大の農作物被害源として記録されている。
サルはシカ・イノシシに次ぐ被害額を記録する動物で、年間8億円規模の被害をもたらしている。果樹・シイタケ・タケノコが主な被害作物だが、厄介なのはサルの学習能力の高さだ。一度「農作物は美味しい」と覚えた群れはなかなか離れず、しかも農作物を食べることで栄養状態が向上して繁殖率まで上がる。物理的な追い払いや簡単な防護柵では対応が難しく、抜本的な対策には銃猟や許可捕獲が必要になる場合が多い。
私の視点:有害捕獲への参加を考えているなら
これらの中型獣や鳥類の有害捕獲は、自治体の「鳥獣被害対策実施隊」として活動するルートが最も現実的だ。活動実績を積むことで狩猟税の軽減措置が受けられる都道府県もあり、地域貢献と実践経験を同時に積める。地元の農家やJAとのネットワーク構築にもなる。興味があれば、まず市町村の農林担当窓口に「実施隊員の募集状況」を確認してみることをすすめる。
現場でしかわからない、本当に大切なこと
これらの被害は、「農家の問題」として遠ざけて考えているハンターも少なくない。しかし実際には、狩猟の現場でこれらの動物と関わる機会は多く、知識の有無が対応の質に直結する。
「目立たない被害ほど長く続く」という現実
クマが出れば大騒ぎになり、行政も動く。しかしヒヨドリに毎年3割の野菜を食われ続けている農家は、「仕方ない」と諦めながら黙って損失を受け入れていることが多い。こういった「声の出にくい被害」ほど、長期間放置されて累積ダメージが蓄積する。わな猟師として地域を歩いていると、こういった農家の本音に触れることがある。「誰かに頼む方法があるなら頼みたかった」——そういう言葉を聞くたびに、ハンターとして何かできることがあるのではと考えさせられる。
「錯誤捕獲」との付き合い方を知っておけ
イノシシ・シカを狙ったくくり罠や箱罠に、アライグマ・タヌキ・アナグマ・ハクビシンが入ることは珍しくない。これを「錯誤捕獲」と呼ぶ。問題は、その際の対応を事前に決めておかないと、現場で困る点だ。アライグマなら特定外来生物として殺処分が原則だが、タヌキや他の狩猟獣の場合は猟期かどうか・許可を持っているかどうかによって対応が変わる。これを知らないまま判断を誤ると、法律違反になりかねない。事前に「この地域の有害捕獲許可と錯誤捕獲の対応方針」を自治体と確認しておくことが、現場での判断力に直結する。
「外来種は殺処分が原則」の意味を理解する
アライグマ・ヌートリアは特定外来生物なので、捕獲後の「放獣」は認められない。場所を変えて放してもその動物が生態系に悪影響を与え続けるため、処分が法律上の義務となっている。これを感情的に拒否するハンターもたまにいるが、自然環境の保護という大きな視点で考えれば、外来種の管理は本来の生態系を守るための必要な行為だ。この点の理解が、地域の駆除活動に参加する際の心構えとして重要だと思っている。
まとめ:「見えない被害」を見る目を持つことが、次のハンターの仕事だ
188億円の被害のうち、シカ・イノシシ以外が占める約64億円分——そこには、カラス・ヒヨドリ・ハクビシン・アライグマ・タヌキ・アナグマ・ヌートリア・サルが積み重ねた、地味だが深刻な現実がある。この記事を読んで「知らなかった動物がいた」と思ったなら、それだけで意味があった。
今日から行動に移せることを3つ挙げる。まず、地元の農林担当窓口に「有害鳥獣捕獲実施隊の募集状況」を確認すること。次に、わな猟の現場で錯誤捕獲が起きた場合の対応を、管轄の都道府県または市町村に事前確認しておくこと。そして、日頃から農家や地域の人と「どんな動物に困っているか」を会話してみること。現場の課題を知ることが、ハンターとしての役割を広げる第一歩になる。
「狩猟は自分のため」だけでなく、「地域の問題を解決する手段」でもある——そういう意識を持ったとき、猟場への見方が少し変わるはずだ。
出典・参考資料
- 農林水産省「農作物被害状況(令和6年度)」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html - 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況(令和4年度)」
https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/tyozyu/231128.html - 東京都環境局「アライグマ・ハクビシンの被害及び対策の状況について」(2024年11月更新)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/raccoon/raccoon - 茨城県農業いばらき「アライグマによる農作物への被害と対策」(2024年9月)
https://nouiba.pref.ibaraki.jp/environment/wildlife/2024/09/16774/ - 農研機構「ハクビシン等中型獣類による農作物被害対策について」(2024年7月)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_kensyu/attach/pdf/tukubakensyu-39.pdf - 環境省「タヌキ、キツネ、アナグマの生息分布調査の結果について」
https://www.env.go.jp/press/press_00614.html - 日本農業新聞「ヒヨドリ農業被害『これまでにないほど』 農水省、異例の全国調査」(Yahoo!ニュース、2025年4月)
https://news.yahoo.co.jp/articles/83fd91d4a03f8874e798006b08f21039a07446d6 - TOSオンライン「キャベツ食い荒らす犯人はヒヨドリ500羽 被害額約300万の農家も」(2025年3月)
https://tosonline.jp/news/20250325/00000006.html - 鳥獣被害対策ドットコム「カラスの生態・被害の現状・対策」
https://www.choujuhigai.com/c/description/description-crow - 愛知県一宮市「2024年度害獣による農作物被害状況」
https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/024/739/higai2024.pdf

